2021/08/07 ウイルスの病原性

3 カ月ぶりになってしまったが、日記を再開する。

SARS-COV-2 と呼ばれる、いわゆる新型コロナウイルスの感染が世界中で広まっている。 これは感染力が強く、COVID-19 と呼ばれる感染症の原因である。 COVID-19 では、無症候ないし軽症の患者も多いが、重症化することもあり、既に世界中で数百万人が死亡している。 この恐ろしい感染症の蔓延を防ぐためにはワクチン接種が有効であることは、既に多くの研究論文によって示されている。 また、SARS-COV-2 ワクチンとしては、世界で初めて mRNA ワクチンが実用化されており、その安全性も十分に確認されている。 これらのことは既に医学的にも社会的にもよく知られている。 従って、まっとうな知性と判断力の持ち主であればワクチンを接種すべきである。 また、感染拡大を抑えるために不要不急の外出は控えるべきであって、今後の状況次第では、いわゆるロックダウンを行うことも必要なのではないか。

と、いうような主張を耳にすることがある。 しかし、これに対し特に疑問を抱かず反発もしない者は、医学や科学に疎いといわざるをえない。 医師や医学科高学年生であれば、上述の主張がどう間違っているのか的確に指摘できるはずである。 とはいえ、この日記の読者には医学の素人も多いであろうから、敢えて、どこがおかしいのか、何回かにわけて議論することにしよう。 今回は、はたして SARS-COV-2 が COVID-19 と呼ばれる肺炎などの原因であるといえるのか、という点を考える。

多くの人は、SARS-COV-2 が肺炎などを引き起こすと信じているようであるが、はたして、そのような因果関係を示す科学的根拠は存在するのだろうか。 一般に、病原体と感染症の因果関係をキチンと示すことは困難である。 患者から微生物が検出されたからといって、それが病気の原因であるとは限らないからである。

ある微生物がある感染症の原因であると確定するための原則として、コッホの 4 原則が知られている。 これは、吉田眞一他編『戸田新細菌学 改訂 34 版』(南山堂; 2013) の記載によれば、 1) 一定の伝染病には一定の微生物が証明されること. 2) その微生物を取り出せること. 3) その取り出した微生物で実験的に感染させられること. 4) 実験的に感染させた動物から同じ微生物が分離される. の 4 つである。 この原則の問題点については昨年 4 月 21 日22 日の記事で書いたので、ここでは繰り返さない。 重要なのは、コッホの 4 原則は、ある微生物がある感染症の原因であると確定するための「十分条件」ではあるが「必要条件」ではない、という点である。

現在の微生物学や感染症学において、コッホの 4 原則に代わる適切な「必要十分条件」として広く認められている原則は存在しない。 だからといって理論的考察を怠り、微生物と感染症の因果関係を曖昧にしておくわけにはいかない。 そこでコッホの 4 原則を修正して次のような 3 原則を考えると、これは、ある微生物がある感染症の原因であると確定するための「必要条件」として妥当であるように思われる。 この日記においては便宜上、これをフランチェスコの 3 原則と呼ぶことにしよう。 1) 一定の伝染病には一定の微生物が証明されること. 2) その微生物を取り出せること. 3) 「その伝染病と類似の症候を呈する病人全体のうち、その微生物に感染している者の割合」が「健常者のうち、その微生物に感染している者 (無症候性キャリア) の割合」に比して低いこと.

コッホの 4 原則では、感染することで病気になる、という単純な因果関係が暗に想定されていた。 しかし実際には、発病には感染だけでなく、病原体と宿主の複雑な相互作用が関与しているので、病原微生物に感染したからといって必ずしも発症するわけではない。 そのためコッホの 4 原則のうち 3) 4) は、満足することが困難な例が少なくない。 一方、1) 2) を満足するだけでは、疾患に無関係な病原体がたまたま感染しているだけである、という可能性を否定できない。 たとえば心筋梗塞の患者について口腔内ぬぐい液の培養検査を行えば、高い頻度で Streptococcus 属細菌が検出されるであろう。 というのも、Streptococcus 属には典型的な口腔内常在菌が含まれているので、健常者であろうが心筋梗塞患者であろうが関係なしに、口腔内に Streptococcus 属細菌は存在しているのである。 だから、心筋梗塞患者から Streptococcus 属細菌が高頻度に検出されるからといって、これらの細菌が心筋梗塞を引き起こす、と考えるのは不適切である。

そこで重要なのがフランチェスコの 3 原則の 3) である。 上述の例でいえば、健常者であろうと心筋梗塞患者であろうと同様の頻度で Streptococcus 属細菌が検出されるのだから、この 3) を満足しない。 従って、口腔内の Streptococcus 属細菌と心筋梗塞に因果関係は認められない、と判断することができる。

さて、COVID-19 の話である。 最新のデータは把握していないのだが、一年ほど前の時点では、無症候の一般大衆のうち 5% 程度が SARS-COV-2 について PCR 陽性のようである、という複数の報告がみられた。 はたして、肺炎患者のうち SARS-COV-2 が PCR 陽性となる患者の割合は、5% よりも高いのだろうか。 そうした点をキチンと調べた研究や文献を、私は知らぬ。

そのように考えると、SARS-COV-2 が引き起こす感染症は実はただの感冒である、という可能性も否定できない。 いわゆる「重症化」は、誤嚥性肺炎などで重症肺炎を来した患者が、たまたま SARS-COV-2 に感染していただけである、という可能性もあるのではないか。 本来であれば、そうした可能性について検証するための大規模疫学調査を行うべきであったのだが、政府はそれを怠り、専門家を称する人々も、その必要性を十分に唱えてこなかった。 キチンとした科学的根拠もなしに「COVID-19 の恐ろしさ」を主張する自称専門家や医者が多いのである。 この国には、感染症学や疫学を修めた医師が少なすぎるのではないか。

なお、本日記載した内容は、本質的には 2 月 17 日 の記事の内容と同一である。


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