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2024/03/23 北陸医大教授との思い出 (4)

教授を含め、大学医学部教員の仕事は、教育、研究、臨床の 3 つの分野にわたる。従って、仮に研究者としての能力が高くないとしても、教育や臨床において優れた人物であるならば、大学教授としてふさわしい可能性はある。臨床というのは、病理の場合、病理診断のことである。かの教授が、病理診断医として優秀であったか否かは、よくわからない。ただし、私が他病院の技師や他大学の病理学教授から聞いた話では、かの教授は診断が「異様に速い」ということで有名であったらしい。それが、かの教授が極めて優秀であるがゆえに診断が速かったのか、それともキチンと診ていないから速かったのかは、知らぬ。

かの教授は、少なくとも教育者としては、優秀ではなかったと思う。それを象徴する事例をいくつか挙げていこう。一つは「バカモン事件」である。一時期私は、同じ病理学教室の先輩医師一名および複数の学生と共に、病理診断学の勉強会としてJ. R. Goldblum et al., Rosai & Ackerman's Surgical Pathology, 11th ed., Elsevier (2018). の輪読会を行っていた。毎週であったか隔週であったか覚えていないが、土曜日午後に図書館のセミナー室で開催していた。その日は学生の参加が少なく、私と先輩医師と学生一名の三名だけであったように思う。また休日であるため、病理学教室には私と先輩医師の二人しかいなかった。教授室の電灯はついていたが、教授は外出中のようであった。我々の居室は廊下に直結されていたが、一方、廊下と教授室の間には前室があった。この前室には秘書の机があり、また我々の居室ともつながっていた。私と先輩医師は、勉強会の会場である図書館に向かう際、我々の居室の扉だけでなく、廊下から前室に入る扉も施錠した。なにしろ、我々の部屋がある建物の入口は休日でも無施錠であるため、容易に部外者が侵入できたのである。教授室にも我々の居室にも、非常にデリケートな物品があるため、たとえ休日といえども、部屋を無人にして出かけるのは問題があると考えたのである。ところが、どうやら教授は、自室の鍵を持たずに外出していたらしい。我々が扉を施錠したために、教授室から締め出されてしまったのである。付近を探しても我々の姿を発見できず、しばらく時間が経って、ようやく図書館セミナー室にいる我々を発見した。そして教授はセミナー室に入るなり「バカモン!」と我々を怒鳴りつけた。

振り返ってみても、我々に落ち度があったとは思えない。「教授室の電灯がついている時は扉に施錠しない」というようなルールは存在しなかったし、むしろ防犯上、施錠するのは当然である。部屋から締め出されてしまったのは、鍵や電話を持たずに外出した教授の過失である。通常であれば、その過失を反省し、我々に対し「すまないが、鍵を開けに来てもらえないだろうか」と依頼するべき状況ではなかったか。それを「バカモン!」とは、一体、いかなる了見であるか。

おそらく、あの人物は、教授を大学研究室における絶対権力者、至高の存在と考えており、教室員を教授様にお仕えする従僕のようなものとみなしていたのではないか。そういう傲慢な精神を持っている時点で、教育者として不適格である。

2024.03.24 一部修正

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