これはhttp://mitochondrion.jp/に掲載している「医学日記」を 検索用に 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われます。 通して読むには、トップページからオリジナルページにアクセスしてください。


2024/03/22 北陸医大教授との思い出 (3)

溜め込んでしまっていた残務も片付きつつあり、ようやく、心にゆとりがでてきたように思う。ここ数年、とくに最近の二年ほどは、はなはだ精神的に余裕のない状況が続いており、これまでの人生の中で最も実りの少ない二年間だったように思う。私が北陸医大を離れる、という話は、北陸医大 (仮) の他の診療科の人々にも伝わっているらしい。教授陣を含めた幾人かの方々から、惜別のお言葉をいただいた。ありがたいことである。

臨床医学分野においては、学術的意義の乏しい論文が量産されている。実験をするにしても、市販されている実験キットを使って、既に誰かが開発した手法をまねして、測定対象を少し変えて実験をすれば「新規性がある」として論文発表される。基本的には、実験の手法は他人の真似をするだけなのだから、あまり頭を使わないし、難しくもない。ただ時間を割いて努力すれば、誰でもできる。

たとえば、ある臓器の癌について、浸潤能の高低を決める因子を模索することを考えたとしよう。スクリーニング目的に、細胞内で発現している mRNA についてマイクロアレイで測定したとする。ほんとうは、マイクロアレイの測定結果の評価に定まった方法というものは存在せず、たとえば規格化 (正規化) の方法一つとっても、「これが適切である」と一概にいえるものは存在しない。個々の実験系に応じて、また研究者の個性によって、様々な解析方法が用いられるはずである。ところが頭をカラッポにして研究する人々は、先行報告と同じように解析すればよい、と考え、その解析方法の理論的根拠などは考えない。さらにいえば、実際には解析用ソフトウェアにデータを投入するだけなので、具体的に自分がどういう解析を行っているのかを理解していない。論文には「このソフトウェアを使いました」と書けば済むので、解析内容を理解する必要はない、と考えているのである。そうして「解析」した結果、候補となる遺伝子のリストが得られる。その遺伝子リストを眺めつつ、各々の遺伝子についての先行報告を調べ、たとえば「他の臓器において浸潤能との相関が報告されている遺伝子」があったならば、その遺伝子に注目するのである。自分の実験結果から理論的評価によって遺伝子を選ぶのではなく、先行報告を基準として選ぶのだから、この時点で二番煎じであり、新規性は乏しいのだが、そう考えない人が多いらしい。

他人の真似をすることでしか論文を書けない教授というのは、残念ながら、稀ではないようである。科学的議論も理論的考察もなしに、ただ真似をしているだけなのだから、議論ができない。「そのやりかたは、おかしくありませんか」と、理由を述べて学生が意見を表明しても、「いや、これでいいのだ、皆がこうしているのだから、君もそうしなさい」などと、実に科学的でない指導をすることしかできない。それで、教授になれるのだ。一体、北陸医大は、どういう基準で教授を選んでいるのか。北陸医大の医学教育が崩壊・腐敗しているのは、あなた方の責任である。

このように、先行報告に沿って、既存の手法を真似して実験するのだから、あまり難しい議論をすることなく、また難しい学問を修めていない学生や医師であっても、一応、論文を書ける。研究とは、そういうものだ、と思っている医学部教員は少なくないようであるから、医学科の学生も、研究とはそういうものだ、と考えるようになる。結果として「基本的には臨床医になるつもりだが、臨床だけでなく、ちょっと研究もしてみたい」などと、本職の基礎医学研究者が聞けば「研究をなめているのか」と激怒しそうなことを平然という学生も少なくない。

私が入った北陸医大の病理学教室は、そういう教授が、そういう学生を「指導」する場であった。そうとわかっていれば、北陸医大になど、来なかった。


Home
Copyright (c) Francesco