これはhttp://mitochondrion.jp/に掲載している「医学日記」を 検索用に 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われます。 通して読むには、トップページからオリジナルページにアクセスしてください。
もう一つの問題は、この実験報告の内容とキリンが発売したスプーンとでは、使い方が違いすぎる、という点である。
報告された実験 1 では、食塩水ゲルサンプル (寒天入り) に箸を突き刺し、そのゲルを舌の上に載せて塩味を評価した。一方、キリンのスプーンの取扱説明書には「約 0.5 秒かけて塩味を増強しているため、スプーンをしばらく口に入れて、じっくり味わってください。」「食品が口に運ばれてから約 2 秒間、食品を介して微弱な電流が流れます。」などと書かれているが、スプーンを口の中のどこに触れさせるか、などの指示はない。なお、取扱説明書の記述では何が 0.5 秒で何が 2 秒なのかわかりにくい。これについては元論文を読めばわかるが、重要ではないのでここでは説明しない。
実験 1 と同じ状況をこのスプーンで再現するには、次のような食べ方をしなければならない。まず食物をスプーンの凹面に載せて口に運ぶ。そしてスプーンは口の中に入れたままで、なんとかして、食物だけをスプーンから舌の上に移す。その操作を行う 2 秒ほどの間、スプーンは口腔内に留めておく。つまり、食物を口腔内に移す際に口唇を使ってはならない。一体、誰がこんな食べ方をするのか。
本当に商品の性能を試験するつもりがあるならば、同じ形状で電流を流す機能の有無だけが異なるスプーンを作成し、どちらのスプーンの方がおいしいか、あるいは変わらないか、を盲検下でアンケートするだけでよい。それをせずに、このような条件設定の大きく異なる実験を、それも文献を明示せずに「引用」するのは、一体、どういう了見であるか。プラセボ効果に過ぎないという自覚がある故に、キチンとした試験を行わないのではないか。
何より問題なのは、朝日新聞の記者の態度である。この記事は、「PR」などの表示もなく、一応、広告ではなく記事だという扱いになっている。この記者は、キリンの主張に対する裏付け取材を行ったのだろうか。企業のプレスリリースをそのまま流したり、記者個人の使用感を書くだけならば、いわゆる SNS やブログで個人が書く提灯記事と変わらない。プロフェッショナルの報道機関としての矜持は、どこに行ったのか。