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2024/05/22 北陸医大教授との思い出 (7)

北陸医大では、腎生検については全例、外部機関に委託して電子顕微鏡検査を行っていた。その際、その外部機関から光学顕微鏡所見のレポートも送られてくるのが通例であった。そのため先輩病理医からは、その外部レポートを確認した上で、それに沿って報告を書くのがよい、と申し送りされていた。腎生検病理に不慣れな我々が曖昧な所見に基づいてレポートを書いた場合、外部からの報告と食い違うとトラブルの元になる、というのがその理由であった。

きっかけは、ある腎生検の症例であった。私が自分でみても、よくわからない、というのが正直なところであった。外部からのレポートを参照すると、いささか稀な診断名と所見が記載されていた。そこで私は教科書等を確認したところ、確かに、その診断名と合致するような所見であった。そのため私は、その外部レポートに沿う形で報告を記載した。

これに、教授が怒った。外部レポートに沿うよう申し送りされていることは知っているが、それは自分の指示ではない。他人が書いたレポートを丸写しなんて、無責任ではないか、というのである。その教授の言い分は、わからないでもない。ただし、私は丸写しはせず、自分の理解に基づいて書き直していたので、いささか非難の度が過ぎるように思われる。さらに、教授は顕微鏡をみながら「この尿細管の中の好酸性物質は何なのだ。キチンとみたのか。」などと批判したが、それは非特異的な好酸性硝子円柱であり、所見として書く意義はないと判断したから書かなかったのである。私を非難することが目的として先行した、言いがかりであろう。さらに教授は「こういう診断が続くようであれば、君らを切らねばらなない。」などと言った。切る、というのは、つまり免職、ということであろう。それだけの権限が教授にあるかどうかは、知らぬ。

ひととおり私を叱責した後、教授は私に、関東地方の某病院に月一回程度、勉強に行くよう命じた。その病院の病理部教授は、北陸医大教授の知り合いであって、腎病理を専門としていた。そこでしっかりと勉強して来い、というのである。

一見、もっともな指示のようにもみえるかもしれないが、いろいろおかしい。そもそも私は、独学で教科書等から多少学んだ以外には、教授等から腎病理診断について指導を受けたことがない。よその病院に勉強のため新人病理医を派遣するというのであれば、自分のところでまず基本的なところを教育してから送り出すべきではないのか。丸投げというのは、先方に対し失礼ではないか。

さらに、この派遣には金銭的な問題もあった。それについては次回、書くことにしよう。

2024.05.26 語句修正

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