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2024/05/15 北陸医大教授との思い出 (6)

北陸医大 (仮) 時代の教授との思い出の続きを書こう。思い出といっても、むろん、楽しい記憶ではない。

当時、北陸医大病理医では診断の曜日当番制を採用していた。すなわち、ある医師は月曜日にできあがった生検症例を診断するとともに、月曜日の術中迅速診断を行い、さらに月曜日の切り出しを行い、その切り出した症例の診断を行う。別の医師は同様に火曜日の生検、術中迅速診断、および切り出し・診断を行う、という具合である。自分の担当曜日以外には新たに症例が割り当てられることはなく、既に割り当てられている症例についてひたすら診断する、という具合である。

当初、私の担当は金曜日であった。つまり、木曜日か、場合によっては水曜日に施行された生検や手術の症例が、私の担当になるわけである。各診療科にもそれぞれ曜日毎のスケジュールがあり、たとえば消化器外科は原則としてこの曜日にしか手術しない、婦人科の手術は通常この曜日である、などと決まっているので、結果的に、私の担当する症例 (診療科) には偏りが生じた。

問題になったのは、腎生検である。当時、腎生検が施行されるのは水曜日であったか木曜日であったか、とにかく、基本的に私が診断を担当することになっていた。腎生検の病理診断というのは、いささか他の臓器とは異なる特徴がある。腎臓の場合、光学顕微鏡だけでなく、電子顕微鏡所見や免疫蛍光法の所見も併せて評価し、総合的に診断するのが通常である。また光学顕微鏡所見も、他の臓器とはいささか異なった評価方法が用いられる。このため、腎生検の病理診断は苦手とする病理医が多いように思われる。

実際のところ、腎生検に関しては、外部機関の腎専門病理医や腎病理診断を修めた腎臓内科医が施行し、院内の病理医はそのレポートをコピーして承認するだけ、というような体制をとっている病院も少なくない、と聞いたことがある。むろん、そのような「診断」は無責任ではないか、という批判もあろうが、正直なところ腎病理をよくわかっていない一般病理医がアヤシゲな診断を発する方が無責任である、との考えもありえる。

このあたりの歪みによる軋轢があったのは、私が病理医一年目 (医師三年目) の終わりに近づいた頃のことである。


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