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2024/09/16 学校健診

今年の 6 月頃に、学校健診における診察のあり方が不適切であった例について、一般ニュースで取り上げられた事例があった。たとえば朝日新聞は 6 月 12 日付で市立小の学校健診「下腹部を触られた」複数の児童が不快感訴えという見出しで報じている。要は、医師が外性器や乳房を視診・触診した行為について、医師は第二次性徴の確認のための診察と主張しているのに対し、診察を受けた側は猥褻行為と感じた、という事案である。これについて日本医師会は 7 月 20 日付でプレスリリースを出している。このプレスリリースでは、児童・生徒や保護者に誤解されないよう、プライバシーへの配慮を充分に行い、かつしっかりと説明することが重要である、という旨のことが述べられている。

この問題については、当該医師も日本医師会も、基本的な部分に勘違いがあるように思われる。学校健診を含め、健診は、あくまで医療行為の一環である。すなわち、児童・生徒には健診を受ける義務はなく、また医師は児童・生徒を診察する当然の権利は有していない。あくまで本人が同意した限りにおいて、すなわちインフォームドコンセントが得られている範囲に限って、診察することが許されているに過ぎない。なお学校健診の場合、本人は通常未成年者であるから、その保護者が代諾者となる。ここでいうインフォームドコンセントの概念は、学校健診であるからといって特別なものではなく、病院等における通常のインフォームドコンセントと全く変わらない。インフォームドコンセントなしに行われる外性器の触診は、それが純粋に良心に基づく診察であったとしても、強制猥褻にあたる。

詳しい診察内容に言及せず「健診を行う」という漠然とした通知に対して承諾したからといって、むろん、全ての診察を受け入れたことにはならない。このような包括的な同意が含むのは、「健診」という言葉から社会通念上、当然に想起される内容に限定される、と解釈するべきであろう。これは、たとえば大学病院において「学生が臨床実習として診療の場に加わることがあります」という通知に同意したとしても、たとえば手術中に学生がメスで患者の体を切ったり、あるいは産婦人科の内診を行ったりすることについてまで同意したことにはならない、というのと同じである。

話が若干逸れるが、2023 年度に施行された改正医師法に基づいて、医科学生の臨床実習前に行われる共用試験(いわゆる CBT および OSCE) が公的化された。これにより、医師免許を取得する前の学生も公的に Student Doctor たる身分が与えられることになった。これについて、学生が診療に加わる際に、患者の同意をイチイチ確認する必要がなくなった、かのように考える者がいるかもしれないが、それは正しくない。この医師法改正は、これまで法的位置付けが曖昧であった学生実習について、法的立場を明確化しただけのことである。学生が診療に加わる際に患者の同意が必要であることは以前と何ら変わりがない。この点については令和 4 年度第 1 回医道審議会医師分科会医学生共用試験部会 参考資料 3などを参照されたい。

話を戻す。児童・生徒が「猥褻行為をされた」と感じるような態様で診察を行ったならば、医師の真意が何であったかにかかわらず、それは猥褻行為である。時間的制約からイチイチ説明できない、というならば、それを何とかするために学校側と協議するのが当然ではないか。なぜ、インフォームドコンセントなしに触ってよいなどと思えるのか。インフォームドコンセントという概念については、なぜか医師会のプレスリリースでも言及されていない。朝日の記者も言及していない。健診にもインフォームドコンセントが必要である、という当然の事実を、健診医も、新聞記者も、医師会も、誰も明確に意識していように思われる。

なぜ、医師には対象者の身体をまさぐる権利がある、などと思えるのか。人権や法について、キチンと考えたことのない医師が多すぎるのではないか。医者はエライのだ、という歪んだ特権意識が、いまだに心の中に潜んでいるのではないか。


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