これはhttp://mitochondrion.jp/に掲載している「医学日記」を 検索用に 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われます。 通して読むには、トップページからオリジナルページにアクセスしてください。


2025/08/07 博士課程学生の研究費について (2)

博士課程の学生は、何らかの研究を行い、それを投稿論文や学位論文にまとめ、審査を受けて博士の学位を授与されることになる。研究を行うには、資金が必要である。化学や生物学の実験を行うのであれば試薬購入費や実験動物の飼育費が必要であろうし、私のように数値計算を中心とする研究ならば計算機購入費が必要である。それらの資金は、一体、どこから拠出されるのであろうか。

既に研究室として行っている研究プロジェクトの一員として博士課程学生が加わる場合は、話は簡単である。そのプロジェクトを遂行するための資金を、教授か誰かが既に日本学術振興会の科学研究費 (いわゆる科研費) などとして確保しているはずであるから、それを用いて研究して論文を書くのである。ただし博士課程学生の研究として、それで良いのか、という疑問が残る。

研究を行うにあたり本当に重要なのは、実験作業や数値計算処理を行うこと自体ではなく、どのような研究を行うのか、どのような手法で行うのか、その妥当性を考え計画を立てることであろう。実験や計算の作業自体は、高校生に多少のトレーニングを施せば実施可能であって、それ自体は難しくない。学識がなくとも、優れた論理的思考能力がなくとも、できるのである。その意味で、中学生や高校生に実験などを体験させるのは科学への関心を高める意味では有効であるものの、実験すること、計算すること自体が研究であるかのような勘違いをさせないよう、指導者は細心の注意を払うべきである。中には中学生や高校生に学会発表や論文発表をさせることで立派な教育をしているかのように自慢する指導者もいる。学会発表や論文発表すること自体は 参加費や掲載料を払えば簡単にできるので、発表したからスゴい、国際論文誌に載ったからスゴい、ということはないのだが、世間ではしばしば誤解されている。はたして、その中学生や高校生は、本当に科学的思考を身につけているのだろうか。

既存の研究プロジェクトに加わって、つまり既に研究計画が立案され、研究の遂行方法の大枠が決まっているところに後から加わって学位を取得する者は、はたして、本当に博士の学位に値するのだろうか、ということを私は述べているのである。

中には、研究費自体は教授の科研費を使っているが、研究計画自体は自分で立案している、という者もいるであろう。その場合、研究の質自体はよろしいかもしれないが、科研費を申請した際とは異なる内容の研究を行っているので、研究費の不正使用、目的外流用にあたり、研究倫理上の問題がある。

既に何らかの財源で購入されて研究室の備品となっているが研究期間が満了して用途の制限がなくなっている計算機等のみを用いて研究を行う場合には問題ないのだが、これで満足な研究を行うことができることは稀である。

従って、博士課程学生がマトモな研究を行うためには「その博士学生のための研究費」がある程度必要である。ところが現在の日本の多くの大学では、学生のための研究費、などというものは存在しない。学生には原則として科研費の申請資格がないし、民間の研究助成金は競争が厳しく、獲得できるとしても、よほど例外的な場合を除いては博士課程の 2 年目に申請して 3 年目に交付されるようなスケジュールになるから、それを財源として研究を始めるのでは博士論文には間に合わない。

昨日述べた JST SPRING の場合、学生一人に年間 34 万円の研究費が交付される。まぁ、ちょっとした計算機一台分の金額である。ないよりはマシだが、世界水準の研究をするには、かなり厳しい。

現実には、多くの学生は、これまでに述べたような「何らかの問題がある方法」で研究を行い、博士の学位を取得しているものと思われる。日本政府は博士号取得者数を増やそうとしているようだが、博士の学位の質については興味がなく、これで特に問題はないという認識なのであろう。学位を発行するだけなら簡単である。

私の場合、研究費の不足分は私費を充当している。私費で研究用物品を購入することは公私混同につながり好ましくないし、大学によっては禁じられているようだが、我が陸奥大学 (仮) には禁止規定が存在しない。一応、自分宛ての研究助成として大学に寄付する、という方法が正攻法ではあるのだが、学生がそれをやると人間関係においてつまらない軋轢が生じる恐れがあるので、私は、指導教員に黙ってコッソリと私費購入している。今年度は既に 100 万円ほどを投入した。年度末までに、さらに少なくとも 50 万円以上を投入する予定である。大学からは「生活費相当額」として年間 216 万円の「研究奨励費」を給付されているが、実際には生計維持ではなく研究費として使われているのである。


Home
Copyright (c) Francesco