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しばらく間隔があいたが、これは私が人生に疲れたからではなく、日々の生活が充実するあまり執筆の余裕がなかったからである。研修医時代から思っていたことであるが、やはり私は、医師に向いていない。私が一般的な医師より劣っている、という意味ではなく、むしろ医師としては「上の下」ぐらいだとは思うが、私の能力が最大限に活きる立場は医師ではない、ということである。私は京都大学で環境に恵まれず標準的ではない道を辿ったが、これが迂路であったのか、実は誰も知らない近道であったのかは、いずれ明らかになるであろう。
私は昨年 10 月に博士課程学生に対する公的な経済支援である次世代研究者挑戦的研究プログラム (JST SPRING)の支給対象に選ばれた。我が陸奥大学 (仮) の場合、対象学生には基本的に月 18 万円の研究奨励費と年 34 万円の研究費が支給される。これに加えて、学内競争的資金として数十万円程度の追加研究費が支給されることもあるが、詳細には触れない。これは日本の博士課程学生に対する経済的支援としては、かなり恵まれている方である。なお、わかりにくい名称だが「研究奨励費」というのは奨学金のようなものであって、つまり個人の収入であり、むろん使途の制限も使途報告の必要もない。
この JST SPRING について、おかしな誤解に基づく批判が一部にあるようなので、当事者の立場から説明をしておく。JST SPRING は、制度上は留学生支援を目的とするものではないが、現実に受給学生の少なからぬ部分が留学生によって占められているのは事実である。ただし、これは国や大学が留学生を優遇しているからではなく、単に SPRING に応募する学生が少ないからであろう。SPRING 支援学生の枠は大学ごとに割り振られているようであり、東京大学や京都大学では毎年数百人の大学院生が新規採択され 3-4 年間の支援を受けるのに対し、北陸医大 (仮) のような地方大学では毎年の新規採択が数名程度と、少ない席を多くの学生が争うことになる。陸奥大学については、一応は匿名で書く立場から、触れない。この限られた席の分配について、大学によっては、ある種の思惑によるのであろう、医学研究科博士課程に特に多くの枠が割かれているようである。ここで問題になるのは、誰が医学研究科博士課程に入学するのか、ということである。
多くの大学において、医学研究科博士課程学生の多くは医師であろう。そして医師の博士課程学生は、多くの場合、非常勤医師として働きながら「片手間」で大学院生としての研究に従事する。大学病院では非常勤医師の給与は安いことが多く、北陸医大時代の私の場合は非常勤契約で週に 38.75 時間ほど働いて月給 28 万円程度 (賞与なし、通勤手当なし)、すなわち時給 1,700 円程度であった。しかし市中病院に非常勤で勤務する場合は、少なくとも日当 4 万円程度、高いところでは日当 7 万円程度、特に条件の良い当直などなら日当 10 万円に達するようなものもある。従って、週に 2 日働くだけで少なくとも年収 400 万円程度になる。
JST SPRING の受給には「年収 180 万円未満」という収入制限があるため、虚偽申告しない限り、大抵の医師は対象外となる。私は非常勤病理医として働いてはいるものの、日当 4 万円、週に 1 日未満で年収は 170 万円程度でありSPRING の対象となっているが、こういう医師は少数派であろう。
結果として、医学研究科博士課程の大学院生のうち多数を占める医師のほとんどが、SPRING の対象外である。では非医師の学生はどうなのか。他大学の事情はよく知らないが、陸奥大学の私が知る範囲では、医学研究科の修士課程学生のうち博士課程に進む者はごく少数であり、大抵は修士修了の時点で就職する。あるいは、病院等に就職した上で、社会人学生として博士課程に進学する。そのため SPRING の対象となるようなフルタイム博士課程学生の道を選ぶ日本人学生は、かなり少ない。結果として SPRING 応募資格のある学生のうちかなりの部分が留学生によって占められている。
つまり国籍について特段の差別なしに選考を行えば、SPRING 受給学生のかなりの部分が留学生になってしまうのである。これは留学生を優遇しているわけではなく、単に日本人学生が対象研究科の博士課程に進学しない結果である。諸君が博士課程に進まないから、留学生に日本のカネが流れているのである。これを問題だというのなら、その責任は、博士課程に進学しない日本人諸君にある。
長くなってきたので、続きは次回にしよう。