これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2014/02/17 ロイコボリン救援療法 (1)

この記事で提示した疑問については、2 月 20 日の記事で一定の解決に至った。

少し前から疑問に思っているロイコボリン救援療法 leucovorin rescue therapy の謎について、記しておく。高度に専門的で厳密さを要求する内容であるので、医学関係者以外の方にも理解できるような配慮は、していない。

まず、メトトレキサート methotrexate は葉酸代謝阻害薬であり、抗癌剤として用いられる。この薬剤は細胞膜をあまり透過せず、基本的には能動輸送により細胞内へ取り込まれる。しかし中枢神経系や精巣などの腫瘍では、血中から腫瘍への methotrexate の移行が乏しいし、また、一部の腫瘍は methotrexate の取り込みを低下させるような変異を獲得しているため、作用に乏しい。そこで methotrexate を大量に投与することで、受動輸送による細胞内への移行を促すという治療法が考案された。当然、正常細胞でも葉酸代謝が阻害されることになるのだが、leucovorin を投与すると、正常細胞は rescue され、腫瘍細胞に選択的な毒性を発揮するのである。

ここで疑問に思うべき点は、なぜ、leucovorin では正常細胞だけが選択的に rescue されるのか、ということである。

南山堂『腫瘍薬学』によれば、methotrexate は細胞内で methotrexate polyglutamate となる。一方、正常細胞では methotrexate polyglutamate はあまり形成されないらしい。そして、leucovorin は methotrexate monoglutamate とジヒドロ葉酸還元酵素の結合を解除するが、methotrexate polyglutamate は leucovorin 存在下でもジヒドロ葉酸還元酵素を阻害し続ける、というのである。

結局、どうして腫瘍細胞と正常細胞の間で methotrexate polyglutamate の形成程度に差が生じるのか、よくわからない。少し論文検索してみた限りでは、どうも、この polyglutamate については未だに謎が多いようである。methotrexate の細胞内への取り込み低下と、polyglutamate 化の間に、何か関係があると思うのだが。

もし何かご存じの方がいれば、ぜひ、ご教示願いたい。

2014/03/13 酵素名の誤りを修正。ジヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼって何サ。

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