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2013/04/12 本態性高血圧と降圧薬

これまでに学んだ病理学や生理学の知識からすれば、本態性高血圧の基本的な機序は次のように理解できる。 まず塩分などを一過性に過剰摂取すると、血漿浸透圧が上昇するので、尿量が減り、総体液量が増加し、血圧が上昇する。 続いて神経性およびホルモン性の機序により、総抹消血管抵抗が低下すると共に、アルドステロンが減少する。 これにより、水やナトリウムの再吸収が減少するので体液量は減少して正常範囲に戻る。 詳細な機序はともかく、ホメオスタシスの観点から、最終的には血圧も総抹消血管抵抗も正常範囲に戻るであろう。 しかし、このような血圧の上下や血管抵抗の上下を繰り返していると、血管に機械的な損傷が生じ、繊維化を来す。 すると血管は弾性を失うから、血管抵抗は正常よりも高いまま固定されたり、低いまま固定されたりするであろう。 理論上、血管抵抗が高くても低くても、それにつりあうだけ血圧が高ければ生理的に安定するのであるから、 このような血管抵抗の不可逆的な変化が起こることは不思議ではない。 以上のような機序により血圧が高値に留まった病態が、一次性の高血圧と呼ばれるものである。 この観点からすれば、「本態性低血圧」とでも呼ぶべき、血管抵抗や血圧が低くなってしまう病態もあり得ると考えられる。 しかし低血圧は、それが重度のものでない限り深刻な影響がないから、あまり注目されないのであろう。

さて、本態性高血圧は心疾患や脳血管障害の原因になると考えられている。 そのことは、上述の本態性高血圧の機序を考えれば、自明である。 すなわち、血管が不可逆的に繊維化して弾性を失っているのだから、粥腫を生じたり、解離したり、血栓を生じたりしやすいのは当然である。

ところで、高血圧の治療薬として、いわゆる降圧薬がある。 作用機序としては、利尿作用により体液量を減少させるか、何らかの方法で血管平滑筋を弛緩させるかに大別できよう。 こうした降圧薬は、抹消血管に新規の不可逆な変化が生じることを防ぐには役立つが、既に生じた変化を元に戻す効果はない。

以上のことから考えると、本態性高血圧に対する対症療法としての降圧薬の投与は、 本態性高血圧がさらに進行することによる心疾患などのリスクのさらなる上昇を防ぐ効果や、 血管に対する機械的負荷を軽減する効果はあるが、 既に血管壁に生じた不可逆的変化に起因する心疾患等のリスクを低下させる効果は持たないと推定できる。

(2013/04/28 修正)
(2013/09/09 誤字修正)

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