これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2013/09/28 上行性感染

尿意をあまりに我慢し続けると尿道炎や膀胱炎になることがある、というような話は、広く知られている。我慢することと膀胱炎に、本当に関係があるのかどうかは知らないが、入院患者などで寝たきり生活が続くと膀胱炎などの尿路感染症を引き起こしやすい、とはいわれている。こうした尿路感染症は、上行性感染によるものである、と考えられている。

ふつう、腎臓や膀胱などといった尿路系は、無菌である。清潔なのである。もちろん、尿道は外に向かって口を開いているのだから、そこから細菌がウネウネと入ろうとすることはある。しかし、それらの細菌は尿によって洗い流されるために、膀胱や腎臓には、なかなか到達しない。ところが、排尿と排尿の間隔が長すぎたり、尿量が少なすぎたりすると、十分に洗い流すことができず、ついに細菌が膀胱に到達してしまう可能性がある。そうすると膀胱で炎症が起こり、痛かったり、時に出血したり、大変なことになるわけである。このように、出口から中の方に細菌が逆行して感染する現象を上行性感染といい、乏尿による膀胱炎は、だいたい、こうした上行性感染によると考えられている。

もし、本当にそうであるならば、膀胱炎までは滅多に起こらないにしても、外尿道口に近い部分の尿道は、頻繁に細菌感染を起こし、炎症を生じているのだろうか。

上行性感染といえば、胆石である。胆嚢に石ができる、という、アレである。医師国家試験や、病院での実習に入る前に受けなければならない CBT という試験などでは、典型的な症例しか出題しない。そのために、問題文中に「天プラを食べた後に腹痛を生じた」という記述があれば、検査結果などをみなくても診断名は胆石だとわかる、というのが試験対策テクニックの一つであるらしい。もちろん、実際にはたまたま天プラを食べた後に大腸炎の痛みを自覚した人もいるだろうし、天プラを食べたかどうかだけで診断できるわけがないのだが、医学科生が受ける全国共通の試験には、このような、くだらない出題が少なからず存在するらしい。むしろ検査結果などを提示せずに、「天プラを食べた後に生じる腹痛の原因として多い疾患は何か」などと直接的に出題した方がマシであると思う。

それはさておき、上行性感染と胆石の関係である。胆石の成分にはイロイロあって、組成に基づく細かな分類もあるのだが、おおまかにいえば、コレステロールの塊か、ビリルビンなる色素の塊か、それらの混合物であるか、の三種類と考えて良い。

私はまだ実物をみたことがないのだが、純コレステロールの胆石は外観もキレイで、変な匂いもせず、細菌もあまりいないらしい。一方でビリルビンが多く含まれる胆石は、汚い色をしており、悪臭があり、細菌がウヨウヨと住んでいるという。

では、ビリルビンの胆石に住んでいる細菌は、どこから来たのか。胆石は胆嚢の中か、胆管にできる。胆管や胆嚢は、肝臓と十二指腸の間にある。肝臓はふつう無菌であるから、基本的には、胆石に住んでいる細菌は十二指腸から上行性にやってきた、と考えるべきであろう。

いまいち、すっきりしない。十二指腸から胆嚢まで上行性に細菌が移動できるなら、胆嚢から肝臓までも、同様に移動できるのではないか。肝臓の中に大腸菌が入りこんで、肝炎を引き起こすはずではないか。肝臓に細菌が入り込んで膿瘍をつくる、肝膿瘍という病態は存在するが、あまりありふれたものではない。ふつうの人では、細菌は肝臓まで入り込まないのである。一体、いかなる防御機構が存在するのか。

たぶん、肝臓からは常に少量の胆汁が分泌されているために、細菌はそれに流されて、なかなか肝臓に到達できないのであろう。一方で胆嚢から十二指腸までは、間歇的にしか胆汁は流れない。そのために、胆嚢までは比較的容易に細菌が到達できるものと思われる。

このように、一応は理屈をつけることができるのだが、どうにも、無理矢理説明したような印象を拭いきれない。


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