これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/12/14 `Ocular Pathology' と `Histology for Pathologists'

先日 `Ocular Pathology 7th Ed.' という書物を購入した。これは、名称の通り、様々な眼疾患の病理を語る書物である。ただし、内容は基本的に箇条書きであり、通読する読み物というよりは、必要に応じて調べるための辞書の類であるように思われる。

海外の事情は知らぬが、日本における学生向けの「教科書」というものは、たいてい知識を羅列しているだけであって、ろくな説明がない。眼科学についていえば、南山堂『TEXT 眼科学』改訂 3 版は名著であるが、それでも疾患概念についての説明は乏しく、徴候や診断方法、治療方法の記載が中心になっている。こうした知識を偏重する日本の医学科教育は、医療労働者養成のための職業訓練には適していても、医学教育としては不適である。そもそも、読んでいて面白くないし、ちっとも興奮しない。

その点、`Ocular Pathology' には、病理組織学的所見のみでなく、疾患概念や臨床所見やまで含めて詳細かつ明瞭に記されており、たいへん、よろしい。この書物を個人で所有するというのは、なかなかゼイタクなことであるが、常に手が届く所に置いてあるということに意義がある。

ところで、病理医の間で有名な組織学の教科書に Stacy E. Mills の `Histology for Pathologists 4th Ed.' というものがある。私は、組織学については南山堂『組織学』改訂 19 版で勉強しただけなので、素人に毛が生えた程度である。これではイカンと思い、先日より、チョコチョコと Mills を読んでいる。この書物は、前文の書き出しが面白い。

The third edition of Histology for Pathologists was published in 2007 and it is reasonable to ask if``normal'' has changed enough in the ensuing 5 years to justify a new edition.The answer, of course, is that normal has not changed at all (evolution is indeed a slow process!)but our perception of normal continues to expand and improve.

本書の第三版が 2007 年に出版されてから 5 年が経つ。この間に、新しい版を出す必要があるほどに正常像が変化したのだろうか、との疑問を持つのは、自然なことである。答えは、もちろん、正常像は全く変化していない。(進化のプロセスは、実に遅い!)しかし、正常像に対する我々の理解は、常に拡張し、深まっている。

いずれの書物も `Pathology' と題してはいるが、内容は、病理診断と直接には関係がないので、一般の医師や学生でも楽しめるであろう。もちろん、こんな本を読んでも、臨床の役には立たないであろうし、言うまでもなく、試験にも出ない。しかし、そういう「役に立たない」引き出しの多寡が、十年後、二十年後に大きな差となって現れるであろう。


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