これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/10/09 off-label 使用

しばらく前から、蕁麻疹に悩まされている。 以前、自家感作性皮膚炎と診断されてから、名古屋市内の某皮膚科医院に通院しているのだが、そこでプロピオン酸デキサメタゾン軟膏の他に、 エピナスチン 20 mg/day を処方されている。 このエピナスチンをキチンと飲んでいれば、まず大丈夫なのだが、通院するのが面倒で薬を切らしてしまうと、 だいたい夕方から夜にかけて、膨疹が出現する。

定期的に通院して治療を受ければ良いのだろうが、なにぶん、生来の医者嫌いなもので、ついつい、怠けてしまう。 こうして蕁麻疹が慢性化すると、やがて治療抵抗性になって、よけいに苦しむのではないかと恐れているのだが、それでも、なかなか、通院する気が起きぬ。 一昨日、ひさしぶりに通院した際にチラリとカルテを覗くと、前回来院は 8 月 27 日、となっていた。 エピナスチンは 2 週間分しか処方されていないのにもかかわらず、である。

処方されたエピナスチンが無くなってからは、近くの薬局でアレジオン 10 という商品名の薬を買って飲んでいた。 アレジオンの成分はエピナスチンであり、1 錠あたり 10 mg, 12 錠で 2000 円ほどである。保険が効かない分、処方薬より高い。 アレジオンの用途は、アレルギー性鼻炎などとなっており、蕁麻疹は含まれていない。 それを、どうせ同じエピナスチンだから、と蕁麻疹の治療目的に使用するのは、薬理学的に正しいとはいえ、医療行為としては積極的に推奨できるものではない。

しかも私は、用法として指示されている 1 日 1 錠ではどうにも効きが弱いように感じられたので、処方薬と同じ 20 mg/day になるよう、1 日 2 回の服用として使用した。 こういうやり方は、事故の元であるので、お勧めできない。 薬理学的にも、20 mg 錠を 1 日 1 回使用するのと、10 mg 錠を 1 日 2 回使用するのとでは、だいぶ異なる。 もちろん、通院先の医師には、こんなことは話していない。ここだけの秘密である。

ついでに告白しておくと、処方されたプロピオン酸デキサメタゾン軟膏についても、イケナイ使い方をしたことがある。 そもそも、この薬を何ヶ月も連続使用して本当に大丈夫か、という疑問もあるのだが、それは、この際、気にしないことにする。 この軟膏は、いわゆる Strong に該当するものであって、顔面には、あまり使わない方が良いとされる。 以前、顔に皮疹が出た際、その医師は Mild に分類されるステロイド軟膏を別途処方してくれたのだが、それを塗った部位に炎症が起こってしまった。接触性皮膚炎であろう。 本当は、そこで医師に相談に行くべきなのであるが、面倒だったので、私は、体幹部用に処方された Strong の方の軟膏を顔面に使用したのである。 これは、薬物濫用にあたる危険な行為なので、マネしてはいけない。 もちろん、私も「大丈夫だろう」などと思っていたわけではなく「怖いなぁ、大丈夫かなぁ」と心配しながら、やったのである。当然、医師には内緒にしておいた。

何を言いたいのかというと、こういう患者は、珍しくないであろう、ということである。 患者が、普段コッソリ使っている薬について申告せず、結果として何か重大な事故が生じた場合、「患者が隠していたのだから医師の責任ではない」という態度は許されない。 患者の嘘を見抜けなかった、患者に心を開かせることに失敗した、という点で、医師の側にも重大な瑕疵がある。 特に、こうした薬物の不適切使用や、あるいは違法薬物の使用などは、自己申告しないのが当たり前なのだから、医師は常に、その可能性を念頭に置いておかねばならぬ。

医学科に進んで、医者になろう、などと思う人々は、だいたい、医者をカッコイイと思い込んでおり、医療行為が大好きな人が多いのではないかと思われる。 そこに、医師と患者の温度差がある。 やむにやまれず、本当は大嫌いな医者のところに、シブシブ通う患者だって、存在するのだ。 患者は、医師の前ではニコニコして「先生」などと言っているが、裏では「あのヤブ医者め」ぐらいのことを言っているかもしれぬ。 それに対して「嫌なら来るな」という態度を取ることは、道義的にも、法的にも許されない。

医師は、聖職である。 我々を嫌い、時には憎みさえする相手に対しても、我々は慈愛の心を持って接しなければならぬ。


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