これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2017/12/31 Solaris

医学とは関係ない、コンピューターの話である。私は、最近はコンピューター業界から離れているが、もともと、いわゆるパソコン (PC) オタクであった。

PC 本体を既製品ではなく、いわゆる自作するのは当然であるが、工学部時代には Linux From Scratch でシステムを組み、最大 5 台のサーバーを自宅で運用して遊んでいた。狭義の linux というのは、フィンランドのコンピューターオタクである Linus が開発した Operating System であって、厳密なコンピューター用語でいえば kernel 部分のみを指す。Kernel というのは、コンピューターの動きの全体を司るソフトウェアであって、これ自体はユーザーからの入力を受け付ける機能や画面に絵や文字を表示する機能を持っていない。そうしたユーザーインターフェースの部分は、shell と呼ばれる別のソフトウェアなどが担う。こうした、実際にコンピューターとして使うために必要なソフトウェアと kernel とを組み合わせたものが Operating System である。Kernel を指すときには linux と小文字で書き、linux を軸とした Operating System を指すときには Linux と大文字を使うことが多い。Linux の Operating System に、便利なソフトウェアを組み合わせてパッケージ化したものを配布している団体や企業もあり、これらは Linux のディストリビューションと呼ばれる。多くの Linux ユーザーは、何らかのディストリビューションを使っているだろう。それに対し、本当に自分好みの、必要十分なシステムを作りたい、という人のために、全てのソフトウェアを自分でカスタマイズしてコンパイルし、Operating System を組み立てる方法を指南しているプロジェクトが Linux From Scratch である。

要するに、Linux の Operating System を自分で作るのが Linux From Scratch なのであるが、手間がかかり、メンテナンスも大変なので、極めて不便で実用的ではなく、趣味の代物である。が、楽しいし、システムをよく理解できるようになるので、興味のある人は、ぜひ、やってみると良い。

Linux は、古くからある UNIX に似せたオープンソースの Operating System である。UNIX というのは、Operating System の規格の一つであり、UNIX である旨の認証を受けた Operating System のみが UNIX を称することができる。UNIX 準拠のオープンソースの Operating System には、Linux 以外にも、*BSD とか BSD 系とか呼ばれる NetBSD, FreeBSD, OpenBSD などがある。なお、この *BSD の Operating System は、カーネルだけでなくシェルなども含めた Operating System として開発されている。Linux や *BSD は、いずれも UNIX 認証を受けていないので厳密には UNIX ではないが、UNIX に準拠して開発されているため、UNIX-like あるいは Unix などと呼ばれる。なお、私は現在、主に NetBSD を使っている。これは、NetBSD が UNIX-like の Operating System の中でも、シンプルで、古典的な UNIX に似せたシステムだとされているからである。

さて、個人が使うコンピューターのための UNIX としては、昔から Sun Microsystems 社の Solaris が比較的、普及していた。Solaris は、*BSD や Linux とは異なり、認証を受けた正真正銘の UNIX である。Solaris は従来、独自仕様の SPARC ハードウェア上で運用する前提で開発されていた。SPARC は、PC の多くが採用している x86 規格の CPU とは互換性がない。平たくいえば、Solaris は PC 上では動かない。厳密には、一応、x86 ハードウェアで動作する Solaris も開発されてはいたのだが、制約が多く、機能に劣り、「まがいもの」のような扱いを受けていたように思う。なので、Solaris を使いたければ SPARC のハードウェアを Sun Microsystems から買うことになるのだが、かなり高かった。

ところが、私が工学部 3, 4 年生の頃であったか、修士課程の頃であったか、よく覚えていないが、Sun Microsystems から廉価な Solaris が発売される、と、インターネット上で話題になったことがある。商品名は覚えていないが、ハードウェアと Operating System がセットで 15 万円程度であっただろうか、とにかく UNIX としては破格に安かった。一応は SPARC のシステムだったように思うのだが、ハードウェアは安物 PC と同程度で性能が低い、といった理由で、結局、あまり流行らなかった。

このように、私や、あるいはもう少し上の世代のコンピューターオタクからすると、UNIX というのは、垂涎の的なのである。

過日、我が北陸医大 (仮) 附属病院の某所において、Solaris が動いているのをみて、私は大興奮した。ある医療機器の制御をするコンピューターが、Solaris だったのである。この機器は、昭和の終わり頃に導入され、大きな故障をすることもなく稼動し続け、そろそろ現役を終えようとしているという年代物である。

私はこれまで、実際に UNIX で動いているコンピューターをみたことは、ほとんどない。インターネット越しに UNIX サーバーを操作したことが少しある程度である。大学院時代の研究室には Solaris のワークステーションもあったが、既に運用されておらず、埃をかぶっていた。

それが、目の前で、Solaris によって医療機器が制御されているのである。若い技師は「古くて不便なコンピューターである」などと言っていたが、むしろ私は内心「ウヒョー」と盛り上がった。


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