これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
進化における選択圧、という言葉がある。
生物は、長い歴史の中で進化してきた、という考えが、世界的には多数派である。一部の宗教勢力の中には「進化」というものの存在を否定する者もいるが、聖書には、進化の存在を否定する明確な記載はない。確かに、創世記には、現在と同じような動物種が最初から神の手で作られたかのような記載はある。しかし聖書は、神の教えを無知無学な民衆にもわかりやすく伝えたものであって、寓話としての要素は含まれていると考えるべきである。聖書に比喩が含まれていると考えることは、聖書の無謬性を疑うことにはならず、キリストの教えとは矛盾しない。
進化は、基本的には、ゲノムの変異やエピゲノムの変化が蓄積することで生じると考えられている。こうした変異や変化は、ほぼランダムに生じると考えられている。その結果として生じる表現型の変化もランダムであるが、大抵は既に有している生物機能に障害を来すものであって、生存には不利である。たとえば、p53 遺伝子に点変異が入ると、癌が多発するようになる。医学でいうところの Li Fraumeni 症候群である。こういう変異は生存に不利なので、その個体は早逝しやすく、そのゲノムは子孫に受け継がれにくい。
一方、稀に、生存に有利な変異が生じることがある。たとえば 4 本足の草食動物の中に、たまたま、首が少し長くなるような変異体が生じたとする。すると、この個体は、他の個体よりも高い所に生えている草を食べることができる。だから、動物数に比して植物が少ないような環境では、この個体は生存に有利である。結果的に、生殖年齢まで生存しやすく、子を生みやすくなる。
このように、生存や生殖に有利な遺伝形質が次代に受け継がれやすい、そういう遺伝形質が「選択」されやすい、という意味で「選択圧」という語が使われる。あくまで結果的にそうなる、というだけのことであって、個々の生物が積極的に形質を「選択」しているわけではない。「首を伸ばそうかな」と思ったから首が長くなるように進化した、というわけではない。高い所にある草を食べようとして首を伸ばし続けたから首が長くなった、というわけでもない。
葉が高い所にあったから首が長くなったわけでもない。葉がどこにあろうと、首の長い個体が変異によって生じる頻度は変わらないのである。葉が高い所にあったから、首の長い個体が生存に有利であった、というだけのことである。もし高い所に草がなければ、無駄に長い首は邪魔になって、逆に負の選択圧になったかもしれぬ。