これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2019/06/23 ディオバン事件

ディオバン事件というのは、アンギオテンシン II 受容体拮抗薬であるバルサルタンについて、ノバルティス社などが臨床試験において不正を行った一連の事件のことである。不正というのは、一つにはデータ改竄、つまり捏造の問題であり、もう一つは、ノバルティス社の社員が身分を偽って研究に加わった、利益相反の問題である。

ここで利益相反について重要なのは、ノバルティスの社員が身分を明示していなかった、ということが問題にされている点である。製薬会社あるいは社員が研究に加わること自体は、倫理的には問題ではない、とされている。それを公表しないことが問題なのだ、というのである。だから、薬剤の添付文書やインタビューフォームをみて、その根拠論文を読んでみると、多くの場合、製薬会社や社員が関与した旨が明記されている。

近年では、学会発表などに際しても、利益相反の開示が義務づけられていることが多い。「開示すべき利益相反はありません」としている発表者が多いが、中には製薬会社などから多額の講演料などを受け取っており、多数の利益相反を列挙する者もいる。そして、大抵、発表の際は「利益相反はこんな感じで」などと言いつつ、そのスライドを 1 秒だけ表示して次に移る。聴衆は、具体的にどういう利益相反を抱えている人物なのか、わからないまま発表を聴くのである。

以前に書いたように、統計には様々な魔術があり、解析結果は、かなりの程度、恣意的に誘導することができる。だから本当は、臨床試験というものは、関係者を排除し、利害関係のない者だけで実施するべきなのである。しかし現実には、それは難しい。そもそも本当に利害関係のない者は稀であるし、そういう者は、わざわざ主体的に臨床試験を行おうとはしない。そこで、科学者の良心を信じて、利益相反を開示した上でなら関係者が臨床試験を行っても良い、ということにせざるをえないのである。

その結果、何が起こるか。資金や便宜を供与してくれた製薬会社の「顔を立てて」配慮したくなるのが人情ではないか。


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