これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
医師と製薬会社が仲良しであることは、よく知られている。
病院内で医師向けに開催される一部のカンファレンスなどでは、製薬会社が高価な弁当を供与し、カンファレンス冒頭に 10 分程度の時間で自社製品の「情報提供」を行うことがある。情報提供というのは、わかりやすい言葉でいえば宣伝である。
また、製薬会社主催で「勉強会」が開催されることもある。私が経験した中では、隣県まで新幹線で行き、駅から会場までタクシーで移動し、大きな会場で何件かの講演や発表を聴き、終了後には「情報交換会」という豪華な立食パーティーが開かれる、というものがあった。新幹線代もタクシー代も主催者負担で、参加費は 1,000 円であった。
先月に参加した某学会では、ランチョンセミナーが開催されていた。これも、製薬会社がスポンサーとして高価な弁当を提供し、それを食べながら講演を聴く、という趣旨のものである。ついでにいえば、この学会の参加証を首にかけるためのストラップも、某製薬会社が提供したものらしく、その会社のロゴが入っている。
真面目な病院の中には、業者からの物品供与を一切禁じているところもある。ボールペン一本でも受け取ってはならぬ、というのである。しかし少なからぬ病院では、そうした規制は乏しく、医師のポケットや机上には、製薬会社のロゴが入った物品があふれている。
念のため、懇意にしている助産師に訊ねてみたところ、助産学会では、そのような便宜供与はないという。つまり、彼らは医療界に貢献しようとして利益供与しているのではなく、あくまで医師に対して、そうしているのである。
なぜ製薬会社は、このように、我々に対して便宜を図ってくれるのか。むろん、医師がエラいからではないし、製薬会社が我々を大好きだから貢いでくれているわけでもない。それが、会社の利益になると考えているから、やっているのである。
なぜ、こうした医師への便宜供与が、製薬会社の利益になるのか。
一つには、医療機関における薬剤の採用や、患者への処方において、医師の裁量が大きいからであろう。実際、私は MR (Medical Representative; 営業担当者) 氏が「情報提供」の場において、自社製品をどんどん使って欲しい旨を発言するのを何度も聞いたことがある。製薬会社が医師に便宜を供与し、医師は臨床現場で製薬会社に便宜を図る、という関係はマズいから敢えて「情報提供」という体裁にしているのに、台無しである。
もう一つが、2013 年頃に話題になった、いわゆる「ディオバン事件」にみられるような、学術の皮をかぶった営利活動である。