これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
私が医学科の学生であった頃にはよく理解できていなかったのだが、医師四年目になって、そろそろ、このあたりの経済的事情がわかってきた。学生や非医師にはわかりにくい世界であろうから、ここで説明しておこう。
まず客観的事実として、大学病院に勤務している医師の給与は、市中病院の医師に比して、大抵、安い。たとえば私は地方大学の大学病院の勤務医であるが、2019 年 5 月に大学から支給されたのは 270,150 円である。常勤しているが、契約上は非常勤扱いで、賞与の類はなく、年給にして 325 万円程度になる。時間外勤務手当などは受け取っていない。また、大学院生としての身分があるから、という理由で、交通費も支給されない。しかし大卒四年目の給与としてみれば、世間の基準からいって、特別に安くはない。ところが世の中には「大学からの給与だけでは生活できない」などと言う医師は少なくないのである。世間知らずであると言わざるを得ない。それとも、大学受験戦争の勝者でありエリートである医師は特権階級であり、莫大な経済的恩恵を受けて当然であると思っているのだろうか。
とはいえ、私の給与が、市中病院の医師に比して安いのは事実である。たとえば、極端な例を挙げれば、三重県の南の方にある尾鷲総合病院の医師募集要項をみると、私と同じ「後期研修医 4 年目」で総支給額が年 1750 万円程度、となっている。
むろん、尾鷲総合病院は僻地で医師不足の顕著な病院であるから、高い給与で医師を呼ぼうとしているのであって、都市部の市中病院では、ここまでの破格の待遇はない。それでも、たとえば岐阜県の高山にある久美愛厚生病院の場合では後期研修医で年給 900 万円程度 (諸手当を含まない) と、かなりの厚遇である。京都や名古屋などの都会では、もう少し安くなるのであろうが、詳しく調べてはいない。
では大学病院勤務の我々が、実際に年 325 万円で生活しているのかというと、そうではない。私の場合であれば週に一度、非常勤医として、市中病院の診療を兼業している。この非常勤医の給与相場には地域差があるようだが、だいたい、一日で 4 万円から 7 万円程度のようである。外科医や内科医の当直の場合、10 万円を越えることもあるらしい。週に一日の勤務で、本業たる大学病院からの給与と同程度の給与を受け取っているわけである。