これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2019/06/17 ホルムズ海峡

数日前から、ホルムズ海峡が嫌な意味で盛り上がっている。この日記は学問、特に医学について記すものであるが、多少は時事社会政治問題も取り扱う。学問と政治は切り離すべき、というのが原則ではある。しかし、現在の日本社会において、時事社会問題について自由に発言できる立場にある者は少ない。一般の会社勤めや自営業であれば、本業への影響を恐れ、こうした問題については発信を控えざるをえない者が大半であろう。その点、我々医師は、良し悪しはともかく医師免許に守られ、社会的にも経済的にも自由で安全な立場にある。こうした、社会のしがらみから少しばかり遠い位置にいる我々には、政治や社会について率直に述べる道義的責任がある。

ホルムズ海峡の問題というのは、むろん、6 月 13 日に 2 隻の民間船舶が何者かの攻撃を受けた件である。日本では、このうち一方の、パナマ船籍で日本企業が有する船舶のことばかりが注目されているようだが、BBC によれば、もう一方はノルウェー所属である。

米英やイスラエルなどは、この攻撃についてイランが関与している、あるいはイランによるものだ、と主張しているが、証拠は提示していない。不発だった爆発物をイラン革命防衛隊が除去する様子、とされる映像は公表されたが、これが本当にイラン革命防衛隊だという証拠はないし、そもそも、爆発物を除去したことが、どうしてイラン軍による攻撃だという根拠になるのか。

日本の大手新聞社や通信社も、日本や諸外国の政府発表をそのまま流すだけである。政府の主張の裏付け取材もなしに、イランによる攻撃だとする米英イスラエル政府の広報活動に協力し続けている。たとえば時事通信は「日本のタンカー、イランが攻撃=イスラエル」という見出しをつけて、イスラエルの主張をそのまま流している。また 朝日新聞 は、「イラン、タンカー攻撃前にミサイル発射か CNNが報道」と、まるでイランがタンカーを攻撃したかのような見出しで、米国 CNN の放送内容を無批判に伝えている。が、この CNN の放送というのは、米国政府の発表内容を、充分な検証なしに伝えているものに過ぎない。むろん、これらの記事は「イスラエルがこう言った」「CNN がこう放送した」と述べているだけの内容であり、時事通信や朝日の記者は、実際にイランが攻撃した、と主張しているわけではない。しかし、こういう記事の書き方は、イランが攻撃したかのような印象を読者に与えるだけのものであって、何ら真実を追求するものではない。

一体、彼らはアフガニスタンやイラクの件から、何を学んだのか。

18 年前、米国は証拠も示さずに、ニューヨークへの攻撃はアフガニスタンによるものだ、と主張した。そしてアフガニスタンに侵攻し、同国政府を壊滅させ、自国に友好的な新政府を樹立させた。むろんアフガン人は米軍に屈服せず、今なお強力な反米・反政府軍事活動が展開されている。

また、イラクにおいては、1990 年の湾岸戦争後に米英は「飛行禁止区域」を設定し、イラク国内の工場などに対する空爆を継続していた。むろん、これには何の法的根拠もない。16 年前には、米国は「イラクに大量破壊兵器が存在するという証拠がある」と主張し、核不拡散条約違反の疑いで IAEA による査察が行われていた。IAEA が査察のために偵察機を飛ばしたい、とイラク政府に申し入れた際には、イラクは、空爆をやめさせるか、そうでなければ偵察機の飛行計画を事前に提出されたし、と返答した。飛行計画がわからなければ、IAEA の偵察機を米英軍機と誤認して撃墜する恐れがあるからである。しかし日本のマスコミは、まるでイラクが査察に非協力的であるかのように報道した。そして査察実行中に米軍はイラクへの陸上侵攻を開始し、結果として IAEA は査察を中断して撤退した。イラク政府は崩壊したが、結局、大量破壊兵器は、みつからなかった。

朝日新聞をはじめとする日本のマスコミは、第二次世界大戦中に政府広報に不適切に加担したことに対する反省を口にしている。しかし、アフガンやイラクの時に米政府に協力したことについては、私の知る限り、謝罪していない。なお、イラクの時の話については、映画「記者たち」が面白い。


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