これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
近頃、日記の更新が滞っている。これは、別途公開予定の物理学テキストを書くのに時間を費しているからである。
現在、多くの大学の医学科では入試に生物学が必須ではなく、理科は、たとえば物理学と化学のみで受験できる大学が多いのではないかと思う。結果として、新入生の多くは生物学の素人である一方、物理学の初歩は修めた状態であることが多い。これ自体は、良いことだと思う。入学後に、生物学は否応なしに勉強することになるのだから、何も、入学時点で既に生物学に詳しくなっている必要はない。むしろ、物理学を全く知らぬ状態で医師になる方が問題である。しかし現在、多くの高等学校では、本当にキチンとした物理学は教えていないのではないか。大学入試に出てくるような問題を解くための方法は教えても、学問としての物理学は、修めていないように思われる。
名古屋大学医学科を卒業した某君から聴いた話である。彼が 4 年生として臨床検査医学の講義を受けた時のことである。講義の終わり際に、某病理学教授は「何か質問はないか」と学生に問うた。誰も挙手をしなかったので、教授は続けて「学ぶということは、問いを発するということである。何も質問がないということは、はたして、諸君は何かを学んだといえるのだろうか。」と、学生達を優しく叱った。すると、このまま黙っていては名古屋大学の名誉が傷つく、とばかりに一人の学生が挙手し、教授の見識に挑むような質問を発したという。
高等学校で物理を学んだ諸君であれば、万有引力の法則だとか、加速度と力の関係だとか、振り子の運動だとか、そういった知識は持っているであろう。しかし諸君は、はたして、それらの知識に対し充分に批判的吟味を加えた上で、我がものとしたのだろうか。問いを発しつつ、物理学を修めたのだろうか。万有引力が距離の 2 乗に反比例するという事実を、本当に心の底から納得して受け入れたのだろうか。教科書に書いてあるから、センセイがそう言っていたから、と、安易に「それが正しいのだ」と認めてはいないだろうか。その結果、物理学は無味乾燥でつまらないものに感じられ、ただ受験競争を突破するための道具として認識されてはいないだろうか。
物理学を知らないということは、物事を論理的に考え現象を合理的に理解することができないということである。だから、物理学を知らない学生は、アンチョコ本に書いてあるインチキ説明をインチキと看破することができない。実際、医学科の学生の中に、流体の運動と圧力の関係についてキチンと説明できる者は、ほとんどいない。アンチョコ本の怪しげな説明を受け売りすることしか、できないのである。
そこで私は、医学科の学生や若い医師を想定読者として、新しい物理学の教科書を著すことにした。なるべく速く書こうとは思うが、完成までに何ヶ月かかるか、あるいは何年かかるか、わからぬ。
私は一応は物理学を修めた身であるが、それでも、書くとなると、わからないことがたくさん、でてくる。古い文献を確認しなければならないことも多い。なかなか、日記にまで手がまわっていないのだが、なるべく、この日記も続けようとは思っている。