これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
前回と前々回で述べた内容は、医学科の高学年生にとっては常識であろうが、世間では、あまり認識されていないように思う。というのも、COVID-19 に関連して、特に症状はないが心配だから検査を受けたい、という人が、少なからず存在するらしいのである。それに対して、医療機関や検査機関の検査能力の限界などを理由に「全く無症状で特別なリスクもない人は検査を受けるべきではない」とする意見や、あるいは一部の外国の例を挙げて「検査態勢を拡充して広く検査を施行すべきだ」と主張する者がいる。しかし、検査とは何かを国民がよく理解していない状況では、仮に充分な検査態勢があったとしても、むやみに検査をすべきではない。
というのも、素人の中には「検査で陰性だったから私は感染していない」などと考え、検査陰性を理由に予防措置を怠る者が稀ではないからである。わかりやすい例が某国の大統領である。某国というのが具体的にどこであるとは書かないが、私の認識では、世界で最も優れた理念を掲げて建国され、現在では世界で最も傲慢になってしまった国のことである。あの大統領は、「私は定期的に検査を受けて陰性を確認している」などという理由で、マスクを着用していない。周囲の者にはマスクをするよう命じておきながら、である。
もし、感染者が検査上「陰性」と判断されてしまう現象 (偽陰性) が、確率的に、つまりランダムに生じるのであれば、何度も検査して陰性が続くことを根拠に「感染していない」と判断することは合理的である。しかし前回述べたように、偽陰性には理由があるのであって、たとえば主治医の検体採取技術が稚拙であるならば、何度検査しても偽陰性が出続ける恐れがある。
このように、「検査陰性」を「感染していない」と誤解する者がいる以上、むやみに検査を施行することは有害である。また、仮に検査陰性であっても自分が感染者であると仮定して行動すべきなのだから、結局、検査しても何も変わらないのである。
それでも素人は、「検査陰性であれば、明らかに感染しているわけではないといえるので、少し安心できるじゃないか」と言うであろう。その安心が、だめなのである。それだから AIDS (acquired immunodeficiency syndrome) が蔓延するのである。