これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
昨日の記事の続きである。念のために強調しておくが、私は、現時点において、世界的に流行中の肺炎の原因を COVID-19 であると仮定して対策することに異を唱えているわけではない。現状では COVID-19 を原因ウイルスと仮定するのはやむをえない。私が問題にしているのは、そういう臨床的な話ではなく、医学、ウイルス学の問題として、COVID-19 に重大な病原性があるのかどうか、という点である。
米国ここ数日、米国では PCR 検査で COVID-19 陽性と判断された患者の死亡数が一日に 2000-3000 人程度のようである。そもそも PCR 検査とは何か、ということを一般人はよく理解しておらず、誤解も多いように思うが、今回はその点は議論しない。米国の一日あたりの死者数はよく調べていないが、人口が 3 億人以上であるから、たぶん、一日あたり 1 万人ぐらいが死亡しているのだろう。すなわち、ここ数日の死亡者のうち 20-30% 程度が COVID-19 陽性ということになる。米国の一般人口における COVID-19 陽性率は、詳しい情報元は後日紹介するが、たぶん、5% 以下程度である。つまり、死亡者における COVID-19 陽性率は、一般人口よりもかなり高いのであって、COVID-19 と死亡との間に何らかの関連があると考えられる。ただし、COVID-19 感染が原因で死亡しているのかどうか、つまり因果関係があるのかどうかは、わからない。このような「因果関係はよくわからないが、何らかの関係はある」という状態を、医学用語で「関連」と表現するので、この 2000-3000 人は「COVID-19 関連の死亡者」と表現される。繰り返すが、COVID-19 が原因であるかどうかは、わからない。
COVID-19 を原因と考えてしまうと、発症者が非常に少ない点が不自然である。どうも、このウイルスに感染した人のうち、詳しい割合はわからないが、ごく僅かの人しか発症せず、また、発症しても軽症で済む人が多いようである。そのような軽症で済む人と、重症化する人との間に、一体、何の違いがあるのか。
ところで、世間一般では「確率」という語が濫用されている。たとえば「COVID-19 に感染した人が発症する確率は……」といった具合である。しかし、ここでいう「確率」とは、いったい、どういう意味なのか。「確率」の数学的定義はややこしいが、おおまかにいえば「同じ試行を何度も繰り返した場合に、その結果が得られる頻度」という意味である。しかし「COVID-19 に感染する」という試行を何度も繰り返すことはできないのだから、この場合の「確率」は定義できない。実際、世の中に本当に確率で表現できる事象は、ほとんど、あるいは全く存在しない。あるとすれば核分裂などの量子論的な現象ぐらいであろうが、それですら、確率で説明しようとする量子力学は誤りであるとする立場もあり、今日でも議論が続いている。
とにかく、COVID-19 に感染した人が重症化するかどうかは確率事象ではない。何らかの病理学的機序が存在して、重症化するか軽症で済むか、あるいは無症候かが分かれるのである。ここで思い出していただきたいのが、昨日紹介した Mandel の教科書で述べられているコッホの原則に対する批判である。コッホが暗に採用した仮定に従って COVID-19 感染が単独で病因になると考えてしまうと、重症化する患者の少なさが説明できない。実際には、COVID-19 感染に、何か比較的稀な条件が加わった患者のみが重症化しているはずなのである。
ひょっとすると、COVID-19 依存的に増殖する別の微生物が存在して、この微生物が病原体なのかもしれぬ。その場合、COVID-19 は、その微生物の増殖を助けているだけで、COVID-19 自体には病原性がないという可能性もある。こういう現象は充分に考えられる。たとえば D 型肝炎ウイルスは、ウイルスゲノムの複製に B 型肝炎ウイルスの存在を必要とする。つまり、D 型肝炎患者には必ず B 型肝炎ウイルスが感染しているが、D 型肝炎そのものは、B 型肝炎ウイルスではなく D 型肝炎ウイルスによって引き起こされているのである。もっとも、この例では B 型肝炎ウイルスも肝炎を引き起こすので臨床的には B 型肝炎と D 型肝炎の鑑別は困難であるが、理論上は区別して考えることができる。
このように考えると、COVID-19 は流行中の感染症に関連してはいるものの、たぶん、直接の原因ではない。