これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2020/04/08 緊急事態宣言

医師 5 年目になった。日記の間隔がだいぶ間隔があいてしまったので、支障のない範囲で、事情を説明しておこう。

近頃、近医精神科を受診している。私の認識では、適応障害である。医学書院『標準精神医学 第 6 版』によれば、適応障害とは

適応障害もストレスに関連した精神疾患の 1 つであり (中略) 基本的には適応障害は,原因となるストレス的な出来事に対する情動的な反応と考えられる.

というものであり、幅広い精神障害が、適応障害に分類される。なお、鋭い人は気づいたであろうが、医学書院『標準精神医学』の最新版は第 7 版であるから、私が引用したのは、一つ前の版である。『標準精神医学』は名著であるが、あくまで学生向けの教科書に過ぎないので、最新版を手元に置いていないのである。ただし、学生と話をする時には便利な書物であるから、買っておくのも悪くない。近いうちに買うかもしれぬ。

さて、精神医学の世界的名著といえば B. J. Sadock et al, Kaplan & Sadock's Comprehensive Textbook of Psychiatry, 10th ed. (Wolters Kluwer; 2017). である。この書物によると、adjustment disorders とは

The adjustment disorders are a diagnostic category characterized by an emotional response to a stressful event.

とあり、『標準精神医学』の記述と合致している。なお、この「ストレス」の内容に制約はないが、具体的なストレスの存在がない場合には適応障害とは診断しない。私の場合、何が原因のストレスであるかは明白であるが、ここに書くと重大な支障が生じる恐れがあるので、書けぬ。まぁ、近医精神科に通院して、少しは楽になっているので、なんとかなるであろう。

ところで、今日は医学のことは書かないのだが、近頃世界中で話題の、いわゆる新型コロナウイルス, COVID-19 の話をしよう。日本政府が「緊急事態宣言」を出したそうであるが、私は、この、いかにも日本的な宣言が、好かぬ。というのも、この宣言は基本的には強制力のないものであって、自粛を「要請」するだけの内容だからである。

私は、なにも、政府はもっと強力に国民生活を制約すべきだ、と述べているのではない。むしろ、この政府の「要請」に従う日本国民のあり方を批判しているのである。

公衆衛生の観点からいって、現在の状況下において、むやみに出歩いたり、多数が集まったりするのは、よろしくない。そうした活動を自粛することは、少なくとも公衆衛生上は、望ましいことである。ただし人は、生きていれば良いというものではなく、文化的活動も極めて重要であるから、公衆衛生よりも文化を優先し、この状況下においてたとえばライブハウスに行くことは、一概に不適切であるとはいえぬ。「ロック活動を中止ぐらいなら、死んだ方がましだ」というような発想は、公衆衛生的には大いに問題があるが、人として間違っているとまでは、いえないのである。

だから、最終的にどう判断し行動するかは個人の問題であって、それを自由に決定するのは、日本国憲法が保障する基本的人権の一部である。それゆえに、法律においても、そうした個人の行動を制約することは難しく、政府は「要請」しか、できないのである。日本という国は、そういう、世界でも稀な自由の国なのである。

そうした自由の国にあって我々は、自分の行動を自分で決める権利がある。ならば、政府が何というかではなく、自分の思想と信念に基づいて行動するのが、独立した一人の人間というものではないか。集会したいと思うのであれば、政府が緊急事態宣言を出そうが構わずに集会すれば良い。また、公衆衛生を重んじ公共の利益を願うならば、緊急事態宣言がなくとも外出は自粛すべきなのである。

それを、緊急事態宣言の有無で行動を変えるとは、彼らは一体、いつから政府の奴隷になったのか。


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