これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
たぶん明日 (2020/06/14) は日記を書かないので、その分を今日 (13 日) のうちに書いてしまおう。胎盤形態異常の話は後日にして、今回は最近世界的に盛り上がっている運動について述べる。医学の話ではない。
Black Lives Matter を標語として掲げるこの運動は、米国をはじめとする世界各地で数百年前から続く人種差別に対する抗議行動である。一部に、この運動に便乗して破壊活動を行っている者がいるようだが、基本的には平和的な抗議行動である。
この運動の標語である Black Lives Matter という言葉をどう日本語に訳すかには議論があるらしい。6 月 8 日の朝日新聞の記事や6 月 13 日の朝日新聞の記事ではこの語を「黒人の命も大切だ」と訳している。一方、これを適切な訳でないとする意見も強いようであり、Wikipedia の「ブラック・ライヴズ・マター」の項 (2020 年 6 月 13 日閲覧) では「黒人の命を守れ」「黒人の命も大切だ、軽視するな」「黒人の命は大切」「黒人の命を軽んじるな」「黒人の命にも価値がある」「黒人の命はいつだって問題だ」「いつだって黒人の命は大切だ」「黒人の命こそ大切」といった訳が紹介されている。
しかし、これらはいずれも、原文の `Black Lives Matter' の意味を正しく反映していない。これらの訳では、黒人の命が大切なのであって白人やアジア人はどうでも良い、と言っているかのようにも読めるが、原文にはそのような意味はない。
私が読んだ限りで最も正確に Black Lives Matter という言葉を説明したのは、朝日新聞 論座の田村明子による記事である。田村氏の文章が丁寧でわかりやすいので、そちらを読んでいただければ充分なのだが、記事を紹介するだけで終わるのも無責任なので、私の言葉で簡潔に説明すると次のようになる。
この `Black Lives Matter' という言葉は、少なからぬ連中が歴史的に `Black lives do NOT matter' と言わんばかりの振舞いをしてきた、という事実を前提にしている。例の警察官が黒人の一般市民を殺害した事件は、その典型である。`Black lives do NOT matter' を日本語に訳せば「黒人の命などは、どうでもいい、とるに足らない」という意味である。それに対して `Black lives DO matter' と言いたいのであるが、語呂が悪いので `DO' を省略して `Black lives matter' となったのであろう。つまり、これは「黒人の命はどうでもいい問題ではない」という、至極当然のことを述べた表現なのである。しかし、この `matter' という単語を日本語に訳しにくいので、上述のような語弊のある訳が広まったのであろう。
ついでにいえば、米兵が沖縄をはじめとする日本各地の基地周辺で Japanese lives do NOT matter と言わんばかりの振舞いをしてきたのも、歴史的事実である。正確にいえば、日本だけでなく、イラクやアフガニスタンを含め、世界各地で、そうした振舞いをしてきた。フランス人も、アフリカやインドシナではフランス革命の精神を忘れてしまったらしく、つい 70 年前まで、そうした蛮行を平然と行ってきた。日本人も同様で、大東亜共栄圏と称し、主に東南アジアで、非人道的な振舞いをした歴史がある。
つまり、問題は白人だの黒人だのに限定されたことではない。人は、人であって、黒でも白でも黄色でもない。人は生まれながらにして自由であり、平等である、ということを理解していない連中が、少なからず存在することが問題なのである。特に日本の場合、初等教育の場において人権についてキチンと教えられていない。少なくとも私は、そういう教育を受けた覚えがない。これでは、自主的に勉強した者は良いが、そうでない者は人権意識を持たぬまま成人し、政治・社会を動かす立場になってしまう。
フランス革命を、世界史ではなく、小学校の授業で教えるべきである。
話は変わるが、大日本帝国は東南アジア諸国を欧米の支配から解放したのだ、と主張する者もいる。しかし、たとえばベトナム独立宣言では「1940年の秋、連合国に対抗する拠点を更に築くため、日本のファシストがインドシナを侵略し」「私たち民族はフランスと日本という二重の枷をかけられ」「実際、1940年の秋から私たちの国は日本の領土となり、もはやフランスの領土ではありませんでした。」「私たち民族は、フランスの手からではなく日本の手からベトナム国を取り戻したのです。」などと明言されている。ベトナム人は、日本と協力してフランスから独立したのではなく、ベトナムを占領した日本から、自分達の力で、自分達の国を取り戻したのである。
一方、朝鮮半島は事情が異なる。武力を背景に大日本帝国が朝鮮半島を併合したことには人道的な問題があるが、あれは植民地化ではない。日本や欧米が東南アジアで行った植民地運営では、現地人は原住民に過ぎず、奴隷のようなものであって、たとえばベトナム人がフランス人扱いされたわけではない。それに対し日本に併合された朝鮮人は、法的には日本人となったのである。法的には日本人であるはずの朝鮮出身者に対し、差別的な取り扱いがされたことは重大な問題であるが、それを「植民地支配」として非難するのは、おかしい。