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たまには高度に専門的でマニアックな医学の話をしよう。胎盤形態異常についてである。
胎盤は、妊娠成立後に形成される臓器であり、母親由来の細胞からできている部分と、胎児由来の細胞からできている部分とがあるが、基本的には両者は明確に分かれており、混ざらない。胎盤の形は千差万別であり、また、臍帯が付着する位置も人によって異なる。胎盤形態があまりに個性的である場合は、胎児の発育に異常を来し、場合によっては子宮内胎児死亡となることもある。そのような、母体や胎児に悪影響を及ぼす恐れがあるようなものは病的であるとみなされている。たとえば前置胎盤や癒着胎盤は、場合によっては大量出血による母体死亡を引き起こす恐れがあるので重要である。
特徴的な所見を呈する胎盤形態異常として、周郭胎盤 (circumvallate) や画縁胎盤 (circummarginate) がある。両者を総称して絨毛膜外性胎盤 (placenta extrachoralis) と呼ぶこともある。本日のテーマは、この周郭胎盤と画縁胎盤の相違についてである。
日本語で書かれた胎盤病理学の参考書として有名なのは、中山雅弘 『目でみる胎盤病理』 (医学書院; 2002). である。「目でみる」などというと、低俗なアンチョコ本であるかのような印象を与えかねないが、著者の中山は胎盤病理の第一人者である。この参考書 (教科書、というほどの本ではない) も内容はしっかりしており、他人の前で読んでも恥ずかしくない類の書物である。この書物の 30 ページによれば、絨毛膜外性胎盤とは
正常では絨毛膜板と基底膜板の長さは同じであるが, 絨毛膜板が基底板より短いものをいう。
とのことである。絨毛膜板とは何か忘れてしまった人は、組織学の教科書を読み返すと良い。基底膜板とか基底板とかいう言葉は、胎盤の構造を表す言葉としては一般的でないように思われるが、ここでは胎盤実質の意味であろう。要するに、胎盤本体に比べて絨毛膜の方が小さいようなものを、絨毛膜外性胎盤と呼ぶのである。
さて、中山によれば、この絨毛膜外性胎盤はさらに 2 つに分類される。すなわち
表面からみて移行部が平坦なものを画縁胎盤 (placenta circummarginate) といい,移行部が襞状になっているものを周郭胎盤 (placenta circumvallata) と言う。
とのことである。
時間の都合で、今日はここまでとする。次回、本題に入る。