これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
前回や前々回の記事で modified intention-to-treat 解析という言葉を紹介したが、実際には、そのような解析法は存在しない。医療統計を紹介した web 上の記事の中には、あたかも、そのような解析法が有力であるかのような記載があるらしいが、キチンとした教科書には記載されていないはずである。
いわゆる modified intention-to-treat 解析については、Alessandro Montedori らによる批判的報告がわかりやすい(Trials 12:58 (2011).)。要するに、intention-to-treat 解析を厳密には行っていない場合に、それをゴマカして modified intention-to-treat 解析と称することがあるらしい。むろん、intention-to-treat 解析を厳密に行わないことに理論的根拠や正当性はないから、つまり、キチンとした解析をしていない、という意味に解釈して良い。さらに、そうした modified intention-to-treat 解析を行った論文では、研究に出資している企業に都合の良い結果が出やすい、とする興味深い報告もあるのだが、その内容を私自身はまだよく確認していないので、ここで紹介することは控えよう。
いわゆる modified intention-to-treat 解析の実態についてのレビューとしては、Iosief Abraha らの BMJ 340, c2697 (2010). がよくまとまっている。このレビューによると、modified intention-to-treat でしばしば行われるのは、割り付けられた内容と実際に投与された内容とが異なる患者を解析対象から外す、といった操作であるらしい。この操作が、特に非盲検の試験において、たいへん邪な威力を発揮することについては前回述べたので、ここでは繰り返さない。他には、治療効果の評価 (検査) が充分ではない症例を除外する例も多いらしいが、これも充分に「有力」な手法であることは容易に想像されよう。
純粋な読者の中には、このような邪悪な modified intention-to-treat 解析を行った論文が掲載されるのは、よほど低俗な論文誌に違いない、と想像する者も多いであろう。そうした低俗な論文誌というのが具体的に何であるか、私自身はよく調べていないが、上述の Alessandro Montedori らの報告によれば、Journal of American Medical Association, the New England Journal of Medicine, Lancet,Antimicrobial Agents and Chemotherapy, American Heart Journal, Journal of Clinical Oncology,といった有名な論文誌に、modified intention-to-treat 解析を行った論文が掲載されているらしい。有名な論文誌に載っているからといって、高尚な論文であるとは限らない、という証左である。
つまり私は、これらの論文誌に載った論文を「医学的意義が乏しい」と言っているのである。人々の中には、そうした権威ある論文誌に載った論文と、無名の自称医師が web 上に書いていることであれば、前者の方を信用する、という者も少なくないであろう。そのような、物事の正誤を権威に基づいて判断する者は、知性が乏しいので、私は相手にしない。まっとうに科学や医学を修めた者であれば、権威の有無に関係なく、自身の頭脳によって正誤を判断し、正しいものを正しいと言い、誤っているものを誤っていると言えるはずである。
諸君は、科学や医学を、修めたか。