これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
本日から、小売店における会計時に配布するプラスチック製の袋、いわゆるレジ袋の原則有料化が義務付けられた。具体的には「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律 (平成七年法律第百十二号) 第七条の四第一項に基づき、小売業に属する事業を行う者の容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進に関する判断の基準となるべき事項を定める省令の一部を改正する省令(令和元年財務・厚生労働・農林水産・経済産業省令第 1 号)」が施行された。これは、いわゆる容器包装リサイクル法 (容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律) の関連省令の一つを改正する省令である。今回の改正の目的は省令の条文には明記されていないが、経済産業省の広報サイトによれば「廃棄物・資源制約、海洋プラスチックごみ問題、地球温暖化などの課題」をふまえて「プラスチックの過剰な使用を抑制し、賢く利用していく必要があります」との観点から「普段何気なくもらっているレジ袋を有料化することで、それが本当に必要かを考えていただき、私たちのライフスタイルを見直すきっかけとすることを目的としています」とのことである。この広報サイトを読んだ時、私は、おや、と思った。「レジ袋の消費量を減らすこと」を目的とは明記していないのである。この経済産業省の書き方は、たいへん気にいった。今回の有料化は偽善的な政策であるが、広報担当者には一片の良心が残っており、苦しんで文言を選び抜いたように感じられた。
いわゆる海洋プラスチックの点についていえば、そもそも海洋へのプラスチックの流出が実際にどれだけ有害なのかわからないのに、それが非常に重大な問題であるかのような印象を広めて危機感を煽る風潮は問題である。「些末な問題なのか、重大な問題なのか、よくわからないけれども、もしかすると重大な問題かもしれないので、念のため、対策しましょう」というならば良い。しかし、科学的根拠もなしに、それが重大で有害だと決めつけてしまうのは、よろしくない。また、我々がプラスチックを使用しても、適切に処理する限り、それが海洋に流出するとは思われない。プラスチック製品を不適切に路上や海上あるいは河川に投棄するから、それが海洋に流出するのである。つまり「海洋汚染を防ぐために、私はプラスチックを使いません」と宣言する人は、「私はゴミを不正に投棄します」と言っているに等しい。
資源制約の観点からいえば、レジ袋有料化は全く意味がわからない。資源、特に石油のことをいうのであれば、まず自動車を規制すべきではないのか。私が住んでいるような日本海沿岸の地方都市では、一家に一台どころか、一人一台に近いぐらい、自家用車が普及している。だから私が、自家用車どころか運転免許も持っていない、と言うと、多くの人は「生活に困らないか」などと心配してくれるし、あるいは内心、私が重大な疾患を抱えていて運転免許を取得できないのではないかと疑っているかもしれぬ。しかし、こうした地方都市でも、住む場所を選び、公共交通機関を適切に利用すれば、自家用車は不要である。自家用車で買い物に出かけておきながら、「環境のため」とレジ袋を断るのは、実に偽善的である。
また今回の省令改正では、レジ袋の価格設定は事業者に任されているため、1 円でも構わないことになっている。たとえば私の勤務先の病院にあるコンビニエンスストアでは、一枚 3 円である。全く、痛くも痒くもない値段である。もし、有料化によってレジ袋の消費量を減らすつもりであるならば、この値段設定は、おかしい。一枚 50 円とか、100 円とかにするべきであろう。
結局、この有料化は、我々の生活の利便をほとんど損なわないようにするという前提で、何か環境のために行動しているかのように感じさせるだけのものに過ぎない。ほんとうに環境をどうこうしようという動きでは、ないのである。
こうした「形だけの取り組み」は、COVID-19 に対する感染予防策にもみられる。
街中や病院の中では、マスクを着用している人が多いが、口だけを覆って鼻孔を露出しているような、感染予防としては効果が非常に乏しい着用法をしている者は、医療従事者にも少なくない。何のためのマスクかを考えず、「マスクを着ければそれで良い」という発想なのであろう。
店舗等の入口にアルコールを主成分とする手指消毒用の薬剤が置かれていることも多い。入店時に消毒せよ、とのことであろうが、これも、どれだけ意味があるかは怪しい。一度手を消毒しても、すぐに、その手で髪や顔やマスクを触るのだから、すぐに汚なくなる。「やって損はないでしょう」というかもしれないが、全国でみればかなりの経済的負担になるのだから、無意味であるならば、やらない方が良い。また、アルコールアレルギーの者に対する配慮がないことも問題である。アルコールアレルギーであっても、「手指消毒をしてください」などと言われれば断われないような、気の弱い者は少なくない。そういう人々に対し配慮せず、効果の怪しいアルコールを設置して良いことをした気分になるのは、はなはだ偽善的である。
次亜塩素酸の噴霧については、あまりにくだらないので、書かない。
病院の中には、職員に対し、県をまたぐ移動を禁止したり、あるいは事前に届け出るよう義務づけたところもあるらしい。むろん、何の法的根拠もなく、個人の自由を不適切に束縛する不法な要求であり、人権侵害である。医師であろうが何であろうが、我々には移動の自由がある。自粛を要求するだけなら問題ないが、強制はできないのである。むろん、自粛は自粛に過ぎず、自粛要請に従う義務はない。そういう人権意識が、日本には乏しい。