これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2021/02/12 人権 (4) --- 雇用主との関係

諸君には移動の自由がある。国家は、その自由を制限するこはできない。たとえ法律を定めても、その法律は違憲であり無効であって、諸君の自由を侵すことはできないのである。ところが、その不可侵の権利である移動の自由を、あたりまえのように侵害しようとする人々がいる。

一部の大学や病院では、学生や職員に対し、緊急事態宣言下などにおいて、県外への私的旅行を禁止した事例があるらしい。また、東京などの感染者が多い地域に旅行した場合は 2 週間の自宅勤務を命ず、というような通達が出された事例もあるらしい。もちろん、週末に東京に遊びに行ったから 2 週間は自宅勤務します、などということを本当に申告したら、職場で非難されるのは明白である。つまり、「旅行したら 2 週間の自宅勤務」というのは、事実上の旅行禁止である。これらの制限について、私の所属大学でどうなっているのかは、敢えて述べぬ。

言うまでもなく、雇用主は従業員に対し、私的旅行を制限する権利を有さない。どうしても制限したいのであれば、予め雇用契約に盛り込む、あるいは別途手当を支給して個別に合意を形成する、といった方策を講じなければならない。そうした明確な契約がないならば、休暇中に県外に旅行することは、諸君の自由である。むろん、休暇の過ごし方を勤務先に報告する必要はない。

「医療従事者なのだから自覚をもって行動しなさい」などと言われることもあるが、これは 2 つの意味で不適切である。

まず第一に、医療従事者が、自身の人権を放棄する必要はない。何人であろうとも、医師であろうと自衛官であろうと花屋であろうと無職の路上生活者であろうと、全ての人に同じように保証されているのが人権である。医師であるからといって、移動の自由を放棄するよう求められるいわれはない。

第二に、医療従事者が特別なわけではない。確かに医療従事者は、病人と接する機会が多いのだから、感染リスクが一般大衆よりは高そうであるし、また多くの人と接するから他人に感染させるリスクも高そうである。しかし、それは、学校教員も、鉄道やバスの職員も、コンビニエンスストアの店員も、皆、同じことである。なぜ、医療従事者が特別だと思うのか。

一つには、医療従事者側の選民意識があるだろう。私は命を扱う特別な仕事をしているのだ、一般大衆とは違うのだ、という意識の持ち主は少なくないように思われる。自分は特別だ、という意識と、自分は特に犠牲にならなければならない、という歪んだ使命感が、表裏一体に存在しているのではないか。

もう一つは、医療従事者をまるで英雄のように祭り上げることである種の快感を得ている部分もあるだろう。ただ、これは一応は「祭り上げられる側」である私が書くのも憚られるし、「医療従事者を応援する拍手」などに対する批判として他の人も書いているから、ここでは述べない。


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