これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2022/03/25 ウクライナ情勢 (1)

4 箇月近くも間隔があいてしまったが、ここ何年か続いていた生活上の重大な問題が、ようやく片づきつつある。このあたりの問題については、5 月以降に少しずつ述べる予定である。

さて、近頃はウクライナ情勢が世界中で注目されている。この記事を書いている時点では、ロシア軍がウクライナに侵攻しキーウ近郊に迫っているものの、ウクライナ軍が善戦し、ロシア軍に重大な損害が出ているらしい。一方、ウクライナ各地で民間施設に対する攻撃が展開され、非戦闘員の犠牲者が多数でているようである。

この戦争を巡っては、日本においてたいへん偏った報道がなされ、また一般大衆の間でも無知と偏見にもとづく言説が広まっている。そこで本日から何回かにわけて、いくつか問題点を指摘しておこう。

今回のウクライナ戦争について、ロシアが悪い、ウクライナは被害者だ、というような言説が広くみられる。私自身は、そのような見方に賛成である。北大西洋条約機構 (North Atlantic Treaty Organization; NATO) の東方拡大を巡り、過去に米国をはじめとする NATO 加盟国が不誠実で、ロシアに対して過度に挑発的な態度をとり続けてきたことは事実である。それに対してロシアが「自衛」のために軍事行動を展開することには一定の正当性があるように思われるが、キーウをはじめとするウクライナ全土へ侵攻し、一般住宅や病院、また原子力発電所など民間施設へ広汎な攻撃を行っていることについては、人道上も国際法上も、擁護の余地がない。

しかしながら、今回ロシアを非難している人々は、かつて 2003 年に始まったイラク戦争、あるいは 2001 年に始まったアフガニスタン紛争について、どのような態度を示したのか。また第二次世界大戦後に生じ現在まで継続しているパレスチナにおける問題について、どのように考えているのか。

ロシアが自国の権益を守るためにウクライナに侵攻し、自国に従属する傀儡政権の樹立を図ることや、その過程で誤射・誤爆によって民間施設に被害が及ぶことについて、米国や英国が非難するのは厚顔無恥というべきである。また、湾岸戦争やイラク戦争で米国を支持しサダムを非難した人々が、今回のウクライナ情勢についてプーチンを謗りゼレンスキーを支持するのは、無節操である。過去何十年にも及ぶパレスチナ情勢に無関心な人々が、ウクライナの問題で途端に人道に目覚めたふりをするのは、あまりに偽善的である。

1990 年 8 月にイラク軍がクウェートに侵攻したことを受けて、アメリカ軍をはじめとする多国籍軍が 1991 年 1 月にイラクに対する攻撃を開始した。これが今日では湾岸戦争と呼ばれている戦争である。戦闘自体は多国籍軍の圧勝であり、1991 年 2 月 28 日に停戦したことになっている。この戦争は、国際連合安全保障理事会 (安保理) の決議に基づいて行われた。

湾岸戦争の停戦後も、アメリカ軍やイギリス軍はイラク上空に「飛行禁止区域」を設定し、その空域をイラクの航空機が飛行することを禁止した。イラクの領空であるのに、外国軍が一方的に「飛行禁止」を決定したのである。さらに英米は、この飛行禁止区域内に軍用機を派遣し、イラクの金属加工工場などに対する攻撃を継続した。停戦後であるのにも関わらず、攻撃を 10 年以上も続けたのである。なお、この飛行禁止区域の設定については、安保理決議に基づいてすらいない。安保理といえども加盟国の主権を正当な理由なく制限することはできないので、安保理決議さえあれば良いというものではないが、安保理決議すらないのであれば純然たる領空侵犯、主権の侵害である。なお、今回のウクライナ戦争においても「飛行禁止区域」という語が登場したが、これはウクライナ政府の要請に基づいて NATO がロシア軍の飛行を禁ずる、というものであるから、イラクにおける飛行禁止区域とは性質が異なり、道義的にも国際法的にも何の問題もない。

21 世紀に入ってから、イラクが大量破壊兵器を保有しているのではないか、とする米国などの主張に基づき、国連がイラクにおいて査察を開始した。当時の日本の内閣総理大臣は、米国から示された非公開の「証拠」をみて、イラクに大量破壊兵器が存在することを確信した旨を表明した。結局のところイラクで大量破壊兵器は全くみつからなかったのだから、あの総理大臣は、一体、何をみて何を確信したのか、よくわからない。査察の過程で、国連側は偵察機を飛ばす許可をイラク政府に求めたが、イラク側は事前に詳細な飛行計画を提出するか、そうでなければ米英軍に空爆をやめさせるよう、国連に要求した。イラクにおいては、湾岸戦争以降も米英との戦闘は続いていたのである。空爆に対して対空砲火で応戦する、という日が続いていた。そこを国連の偵察機が事前の届出もなく飛行すれば、米英軍機と誤認して撃墜してしまう恐れがある。イラク政府の要求は至極妥当であると思われるが、日本のマスコミは背景事情を説明せずにイラク側の要求のみを紹介し、まるでイラク政府が査察に非協力的であるかのような偏った報道を行った。査察が継続される中、米国はイラク侵攻を決定し、実際の軍事行動を開始した。それを受けて国連は査察を中止し、査察団は撤退した。査察を妨害したのは、イラクではなくアメリカなのである。

1991 年の湾岸戦争はともかく、2003 年のイラク戦争は、米国が一方的にイラクに侵攻した戦争である。実際にサダム政権を妥当してイラクを「解放」し、親米政府を樹立した。これは、現在まさにプーチンがウクライナで行おうとしていることではないか。どうして、イラクのサダム政権を軍事的に打倒することが正義で、ウクライナのゼレンスキー政権を打倒することが悪なのか。ロシアやプーチンの蛮行は容認できぬが、アメリカがロシアよりマシだということもない。

おぞましい話であるが、彼らは、無意識のうちに、次のように考えているのではないか。アジアの未開国であるイラクに侵攻することはやむをえないが、ヨーロッパの文明国であるウクライナに侵攻することは許されない。


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