これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2021/11/30 COVID-19 に対するワクチンと治療薬と検査 (2)

COVID-19 治療薬についても書いておこう。

現在のところ、SARS-COV-2 が有する蛋白質分解酵素などを標的とした治療薬の開発が行われているらしい。いうまでもなく、そうした薬は、標的蛋白質に変異が生じれば有効性が低下する。コロナウイルスは変異が早いのだから、普通に考えれば、そうした治療薬が臨床的に用いられるようになれば、すぐに薬剤耐性株が出現するであろう。

ヒト免疫不全ウイルス (human immunodeficiency virus; HIV) 治療薬の例を考えると、わかりやすい。HIV の存在が知られるようになった後、抗 HIV 薬として様々な薬剤が開発された。しかし、やがて治療薬に耐性を有する株が出現し、アフリカの一部地域などでは多剤耐性株も多数確認されている。「現在では HIV 感染症治療薬が開発されているので、もう AIDS は怖くない」などと言う者も一部にいるが、上述のような耐性株の蔓延を考えれば、楽観的に過ぎるといえよう。

SARS-COV-2 においても同様に耐性株が蔓延すると考えるのが自然である。ワクチンについても、ワクチンが対象とする蛋白質に変異を来し、ワクチンによる免疫効果から逃れる株が蔓延すると考えるのが自然である。ワクチンや治療薬によって COVID-19 を制圧できる、などと楽観論を述べる人も一部にいるようだが、いったい、どのような医学的・生物学的根拠があるのだろうか。

ワクチンにせよ治療薬にせよ、コロナウイルスのように変異が速いウイルスに対する薬剤の開発は困難である。だから、従来、感冒に対するワクチンや治療薬は作れない、と考えられてきたのである。念のために書いておくが、市販されている「感冒薬」は解熱鎮痛薬の類であって、感冒そのものを治療しているわけではない。

特別な技術革新があったわけでもないのに、急に、コロナウイルスに対して本当に有効なワクチンや治療薬を作れるようになったと考える方が、おかしいのではないか。


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