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大抵のウイルスは、特定の種類の細胞にしか感染しない。普通のコロナウイルスは上気道の上皮細胞に感染するが、中枢神経系には感染しない。ヘルペスウイルスは神経細胞に感染するが、心筋細胞には感染しない。そうした制限があるために、ウイルス感染によって障害を来す臓器は、ある程度限定されている。
一方 mRNA ワクチンの場合、エンドサイトーシスを来す細胞であれば、理論上、あらゆる細胞が mRNA を取り込む可能性がある。そして mRNA を取り込んだ細胞は、class I HLA を介して、キラー T 細胞の標的となり、アポトーシスなどの細胞死に至恐れがある。とはいえ、たぶん、このような事象の頻度は低いであろう。投与された小胞が、樹状細胞やマクロファージよりも先に一般の細胞に貪食されることは、それほど頻繁には起こらないと期待されるからである。
それでも、時には起こるであろう。何らかの事情、現在の医学では「体質」という言葉で誤魔化すしかないような何らかの条件を備えた人の場合、たとえば腎臓や心臓の細胞が積極的に小胞を取り込んでしまうことがあるかもしれぬ。そうすると、腎臓や心臓の細胞が、いわば自己免疫応答によって、損傷されることになる。
そのような「体質」の持ち主であっても、実際に小胞を取り込む心筋細胞の数は少ないであろうから、臨床的にはっきりわかるような自己免疫性心筋炎や自己免疫性腎炎を来すことは稀であろう。しかし、臨床的にはっきりしない程度の損傷であっても、将来的に心不全や腎不全を来すリスクを高める恐れがある。あるいは、悪くすると、ワクチン接種を契機に膠原病を発症することも、あるかもしれぬ。
そうした理論上の懸念が、一般大衆には適切に伝えられていないように思われる。たとえば Wikipedia には、誰が書いたか知らぬが
mRNAが注入された細胞は単に抗原を提示するだけであり、抗体の標的にはならないため安全である。
と、ある。確かに抗体の標的にはならないが、キラー T 細胞の標的になる恐れがあるのだから、「安全である」は言い過ぎである。
製薬会社は、臨床試験の結果として重大な有害事象は極めて稀であると主張しているが、上述のような自己免疫様の有害事象の頻度は、今後数年、数十年にわたり多数の事例を観察しなければ、わからないはずである。
私は、mRNA ワクチンは危ない、接種しないべきだ、と言っているわけではない。「接種直後に死亡するような急性の有害事象は少なそうだが、長期的な有害事象については、よくわからない、というべきである」と主張しているのである。長期的な有害事象の頻度は確認できていないし、理論的には安全面に対する懸念があるのに、製薬会社や政治家あるいは医療関係者が無責任に「安全性を確認した」「安全である」などと宣伝するのは、かえって一般大衆からの信頼を損ねるのではないか。